190
相談編

192相談=吠えて困る犬
相談=吠えて困る犬
二才になる、雄のシェルティーを、部屋の中で飼っていますが、お客様がみえた時はもちろん、表を人が通ったり、物音がしたりするだけで、一目散に窓際に走ってゆき、物凄い勢いで吠えたてます。
散歩の時は、紐を短くもって、きちんと真横を歩かせるようにしていますし、トイレの躾も良く、決して室内では粗相をしないで、散歩に出かけるとすぐにします。部屋で吠えることさえ除けば、とっても良い子なのですが、こればかりはいくら叱っても一向に直りません。最近は、ご近所からの苦情もあり困っています。

ご近所との事情を考えれば、犬が吠えた時にどうするかという、対症療法を講じる必要があるのでしょうが、本質的にこの問題を解決するためには、どうして吠えるのかを、まず飼い主自身が知ることに始まるのです。
吠えて困る犬には、大きく分けると、警戒心から吠える場合と、何かを要求して吠える場合とがあります。

この方の場合は、警戒心によるものと考えます。
そして、叱る事によって、一層に、悪化させてしまった事と思われます。
以前にも述べたように、「叱る」ということは、両刃の剣であることが多いのです。
吠える犬に関していえば、特に家族の方が中途半端に叱ることによって、逆に犬は、自分に加勢してくれていると感じ、一層、自信をもって、よく吠えるようになるのです。
また、犬によっては、ママがあんなに吠えているのだから、僕も、もっと頑張って吠えなければと思うのです。

犬が、自信を持ってよく吠えるようになる原因にはもう一つあります。
新聞配達・宅配便といった具合に、自分の用件が済むとすぐに帰る人間に対して、犬は自信をもつのが普通です。自分の姿を見たら、逃げ帰ったと思うからなのでしょう。

叱っても犬が吠えるのを止めない時には、犬は叱られているとは感じていない訳ですし、一瞬吠え止んでもすぐにまた吠え出す場合には、叱られたという事はわかっても、何を叱られたのかまでは、わかっていないのです。
例えば、走っている馬を、鞭で叩いたら、馬は、走るのを止めるものでしょうか ?
通常は、さらに速度を上げるのです。似たような事をあなたはしていませんか?
走っている途中で鞭を入れられて、はたして馬は、それ以前から継続して行なっている「走る」という行動に対しての罰が下ったのだと思えるものでしょうか。

なぜ、そんな結果になるのかを考えて見ましょう。
一つには、強さと方向。もう一つは、タイミングにあります。
叱咤、あるいは激励といった程度の強さではなく、それこそ馬が驚く程の強さで、馬のお尻ではなく、
馬の鼻先から、鞭を入れたらどうでしょうか。馬は立ち上がって止まるかもしれません。

幼犬の頃はまだ警戒心が非常に乏しいものですが、成長につれ、警戒心は、徐々に芽生えてきます。
自然な警戒心で吠えた犬を、飼い主がやたらに叱る事によって、あるいはまた、来客があると、その時だけ犬を
サークルに閉じ込めたりすると、犬は来客と、自分の不快とを結び付けて学習してしまい、来客に対して、一層の嫌悪を深め、さらに吠え立てるようになるといった悪循環をひきおこす事も多いのです。

最初に犬が来客に吠えた時に、しなければいけない事は「犬を叱る事」ではなく、「吠える必要のないことを教えてあげる事」なのです。
犬に関する常識として、「犬を狭いところに置くとストレスが溜まって吠える様になる」というものがあります。しかしむしろ逆で、縄張りは広ければ広いほど、方々に神経を配らなければならないのでストレスになります。
元来が居穴性動物である犬にとって、最も安息を得ることのできる環境というのは、三方が囲まれた身一つの広さの場所なのです。にもかかわらず多くの方が、狭いハウスに入っている犬を見ると、かわいそうに思うのです。

これに付け加えていうならば、愛情のつもりで犬を可愛がるばっかりに扱い、犬に家族のリーダーであると思わせてしまう事は、犬に、家族を守らなければいけないという、不要の使命を与えることであって、かえって犬のストレスを増大させて、やたらに吠える犬にしてしまうことが多いのです。 「イヌ」を知らないがために、かわいそう違いをして、犬をもっとかわいそうな羽目に追いやっている方は非常に多いのです。

具体的に対策を挙げてみましょう。まず犬の縄張り意識を緩和させる事です。
そのためには室内で常時、犬はクレートに入れ、排泄は、部屋か庭の特定の場所でさせ、散歩中はさせない事からはじめます。また、部屋中を好き勝手にさせるという事は、対症療法を講じる上でも不都合です。先ほども述べたように、吠える事を止めさせるためには、吠えている途中で罰を与えたのでは、犬には理解しにくいのです。
肝心な、吠え始めを制するためには、犬に一定の場所にいて貰ったほうが良いのです。

次に、犬の、リーダー意識を削除する事です。これには、散歩時、必ず紐を弛ませる練習を行なってください。
いくら紐を短く持って横を歩かせていても、引き紐が張った状態では、本質的には全く意味を成しません。
そうして、何度となく犬の行こうとする方向と正反対の方向に歩く練習を繰り返します。
それらがある程度進んできたら、今度は対症療法を併用し、「吠えると、嫌な事が起きる」という条件付けをしていきます。投鎖を使い、犬が吠え始めた瞬間に天罰を与えます。三方が塞がれたクレートであれば、天罰を用いる上でも、好都合です。吠え始めに、タイミング良く罰を与えるためには、あらかじめ人間の側の準備が必要です。家族、友人に協力して貰い、犬に隠れて、天罰を与える用意をした上で、チャイムを鳴らしたり、窓の外を歩いて貰ったりします。


 前のページに戻る 教本TOPページへ   次のページに進む






いずみ愛犬訓練学校教本          copyright©1991 いずみ愛犬訓練学校 all rights reserved.