230教えるということ


235足す方法・引く方法
足す方法・引く方法
 
人物の顔の像を作る場合には、「彫塑」と「彫刻」という二つの方法があります。
彫塑というのは、始めに針金で軸を作り、それに少しずつ粘土をつけていく方法で、
彫刻というのは、木などの大きな塊を、少しずつ削って作り上げていく方法です。

別の例えでいえば「加点法」と「減点法」です。
コップに水が半分はいっています。
まだ半分もあるとポジティブに考えるのが加点法的な発想で、
もう半分しかないとネガティブに考えるのが減点法的な発想です。
加点法的教育方法は、好ましいところを見つけて、褒めて伸ばしていきます。
減点法的教育方法では、好ましくないところを見つけて、直していきます。

人の横にぴったりと付いて歩く、脚則行進という訓練科目があります。
彫塑方式、あるいは加点法的指導方法ですと、
犬が横にいる状態から、まず一歩、犬を誘いながら歩いて、もし犬がついてきたらほめてあげる。
上手に一歩が歩けたら、次は二歩、三歩と少しずつ距離を伸ばしていきます。
いわゆる「ほめて教える」です。

彫刻方式・減点法的指導方法ですと、リードをつけた犬を自由にさせて自分は歩き始めます。
犬がリードの長さ分だけ離れたら、リードを引いてショックを与えます。
そして次第にリードを短く持つように変えていき、犬が離れる距離を短くしていきます。
いわゆる「叱って教える」です。

こうして文章を書きながら、ふと思いました。きっと誰が読んでも前者の方が断然良いですよね。
でも私は、どちらかと言えば後者の方をお勧めしています。
前者では、横をついて歩いているといいことがあるということを学ぶだけで、引っ張ってはいけないことを
教えていません。大きくなってから、突発的に引っ張るようになってしまうと、直すことが困難だからです。

そしてまた、犬の行動の全てが、人が教えたことによってのみ行なわれるのであれば、
つまり何も教えていない犬は、何の行動も起こさないのであれば、加点法的な教育だけでも可能かもしれません。
しかし、実際はむしろその逆で、犬は何も教わらなくても、本能に基づいて、ありとあらゆることをするのです。
長所を伸ばすことはとてもいいことでしょう。しかし、悪い面をそのままにしておくことには賛成できません。
そのままにしておけば、そのうちに消えてなくなる悪い面もあれば、下手に直そうとして一層に悪化させてしまいがちな悪い面と、
そのままにしておくとどんどん大きくなる悪い面と、これもまたそれぞれです。

また別の理由として、どちらが厳しく制約しているのだろうかという疑問です。
一緒に生活を送る上で、してはいけない事と、していい事のどちらが多いのでしょう。
これとそれとあれはしちゃダメだよ、あとは好きにしていいから。
これとそれとあれは好きにしていいよ、あとはしないようにね。
どちらが自主性を重んじているのか、どちらが縛りつけているのかよくわかりませんが、
私の感覚では前者の方を好みます。
おそらく、「禁止されたことだけは、しないように」という方が、「許可されたことだけを、するように」、
という方よりも自由の幅は広いように思いますし、個性や能力も発揮されやすいのではないでしょうか。





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