600最新のトレーニング法
最新のトレーニング法


601現在主流のしつけ方
現在主流のしつけ方
  現在では、褒めることを主体としたしつけ方が主流です。
1990年代前半にアメリカから導入された、行動学の 学習理論に基づいた科学的なトレーニング手法です。
その新しい方式は、それまでの日本で昔から行なわれていた軍隊式の訓練、 すなわち威圧感や罰を主体とした強制的なものではなく、オペラント条件付けの学習パターンの一つである 正の強化に着眼し、罰を用いずに褒めることで犬をしつけるスタイルとして取り入れられたものです。
しかしながら新しい方法とされている正の強化によるトレーニング自体は、古くから経験則として知られており、 訓練士であれば誰もが普通に用いていたものです。新しいとすれば、それは罰を用いないという点でしょうか。

この20年ほどの間に、犬のしつけ方法は大きく変わってきました。 本来、教育であったはずの犬のしつけが、ビジネスとして行なわれるようになったことにより、 採算の合わない方法や、リスクを伴う方法は、もっともな理由をつけて排除されていきました。

叱ることはいけないこととされ、させることは強制であるとし、褒めると称しておやつを与える。
そんな方法が、科学的で動物愛護に則った正しい方法であるかのように広められています。
かつては住み込みで長い年月を、それこそ犬と寝食を共にして修得した犬の訓練技能ですが、 昨今では、専門学校に通ったり協会のセミナーを受講して資格を取得する人が圧倒的多数です。
トレーナー自身が、「教える側(学校や協会)にとっての都合の良い訓練方法」を教え込まれているのです。

科学的トレーニングとは、非科学的である「信頼関係」という抽象的な概念を排除したトレーニング方法です。
信頼関係を排除した方法を取り入れることで、トレーナーになるための勉強は、犬に教えるための実技ではなく飼い主に教えるための理論が主体となり、犬を伴わずの教室での授業形式で行なうことが可能になったのです。
正の強化に着目することで、技能の修得がもっとも困難な罰さえも、そもそも教える必要がなくなりました。
全ての動物に共通する行動原理ですから、それぞれの犬の性格を知ってその個性にあわせる必要もありません。

しかし選ぶべきは、「犬にとっての良い方法」あるいは「飼い主にとっての良い方法」ではないのでしょうか。
たしかに信頼関係に基づく訓練方法は、相手との関係性に左右されますし、容易な方法ではないかもしれません。
犬との関係作りを習うことも、あなたがプロになるためでしたら、あらゆる犬と信頼関係を結べるだけの多様な 能力を身に付けなければなりませんが、飼い主であれば、一緒に暮らして常に世話をしている自分の愛犬とだけ、信頼関係を結ぶことができればいいのですから、それほど大変なことではありません。
なによりも、犬と信頼関係で結ばれることこそが、あなたが犬に求めている本質なのではないのでしょうか。



602旧来の訓練方法
旧来の犬の訓練方法は
  「旧来の訓練は、殴って教える、力で服従させる、犬は怖いから従うのです。」「今は、ほめて教えることが主流です。」
最近よく耳にする言葉です。
違いは「叱るか、叱らないか」なのであって、今も昔も、ほめないで教えるなどということは、ほとんどありえないと思います。

それなのに、なぜ、ほめていないと思われてしまうのでしょうか。
特にアメリカで犬のトレーニングを習ってきた人に見られるのですが、
大きなアクションや、高い声を上げる褒め方をする人がいます。
もちろん場合によっては、そのようなほめ方を推奨することもありますが、
そうしたほめ方だけがほめる方法ではありません。

また、旧来の訓練方法というのは、本質的な人間との関係がなされていることが前提でありましたし、それを受け入れる稟性を備えた犬でありました。
なぜ大げさなほめ方をしないのか、それはそれ以前に犬との信頼関係ができているからです。
犬を理解し信頼関係をきちんと築いていれば、優しい声掛けやわずかな笑顔も、十分なご褒美にもなるのです。
ただ単に、褒めていることをアピールせんばかりの甲高い声や大げさな身振りをするわけではないので、観察力のないその人にはわからなかっただけでしょう。繊細な味覚を持たない人が、「京料理というのは、何も味が付いていない。」と 言って回るようなものです。



603犬を預けて訓練すると
犬を預けて訓練すると
  「犬を預けて訓練することはお薦めできません。
 なぜなら、犬は訓練士の言うことはきくようになっても、帰ってきて家族の言うことはききません。
 訓練士は犬を力で威圧して従わせますから、犬は怖くて言うことをきいているのにすぎないのです。 」
多くの人が、このような意見やアドバイスを耳にしたことがあると思います。

この話には4つのポイントがあります。
まず第一に、当然の話です。そもそも、「できる」ということと「する」ということは別次元の話なのですから。参照276
第二は、訓練士の行なう訓練は威圧的強制訓練であるという刷り込みを兼ねた商売戦略としてなされた過去です。
そして次に、教えること(トレーニング)と、扱うこと(ハンドリング)というものの違いをわかっていません。
参照241
最後に、入院しなければ治せない病気もあるということです。


604預託訓練のデメリット
預託訓練のデメリット
  預託訓練には、費用がかかる、淋しい、心配などのデメリットがあり、躊躇する人が多いと思います。
たしかに預託訓練には、非常に大きなデメリットがあります。
しかし本当にデメリットがあるのは犬や飼い主にではなく、犬に訓練を教える側になのです。

随分と以前は、犬を訓練する場合には訓練所に預けることが一般的でした。
「訓練所に預けて訓練をすると、見えないところで虐待される。」「警察犬の訓練士は体罰を使って訓練する」
「犬は怖くていうことをきくのであって、飼い主の言うことはきかない。」などといった「訓練士バッシング」がインターネット上で、犬のしつけや飼い方、質問や相談のコーナーのあちらこちらに書き込まれました。

それらの多くは一般の飼い主の方の体験や見聞きしたものなのでしょうが、一部には当時設立されたばかりのトレーナー養成団体の市場開拓の商売戦略として、組織的に風評の流布が行なわれていた事例もあります。
トレーナー養成事業者たちは、新規参入にあたり、まず既存の犬の訓練方式を全否定することから始まりました。
キーワードは「科学的」と「動物愛護」です。職人的技能は非科学的、罰は虐待とされたのです。

確かに、指摘の多くは十分に賛同できる内容であります。
いわゆる訓練士業界が、いまだに封建制度の残る社会であり、それらの問題点については私自身も身を持って認識しています。
ただし、どのような業界においても悪質な輩というのは排除しきれないのです。
ネット上に書き込まれたものの多くは、おそらく実例なのだろうとは思いますが、非常に極端な例をあげて、それを理由に全てを否定することは適切ではありません。

経営のできる人や、ちょっと頭の良い人ならばすぐにわかることですが、預託訓練にはデメリットが多すぎます。
 ・施設を必要とする(多額の初期投資と維持管理の経費が必要です。)
 ・管理の人手を必要とする(生き物ですから急病などもあり、24時間、365日の管理が必要です。)
 ・管理の技能を必要とする (怪我、病気の健康管理、脱走、不慮の事故の防止などの行動管理が重要です。)
 ・成果について全責任を背負う (しつけ教室であれば、成果の良否は飼い主の責任です。)
 ・問題行動の問題をそのまま自分が抱え込む (吠え、咬みつき、破壊、排泄、他犬との喧嘩など)
 ・上記全てに伴う、評判によるリスクを負う(犬の悲鳴がするから虐待しているに違いない、など)

吠えて困っている犬や、飼い主にさえも咬み付く犬を預かることがどういうことか考えてみてください。
吠える犬の預かり訓練を引き受けるのであれば、当然に住宅街に住むことは難しくなります。
もちろんそれを直すのが仕事ですが、直った頃にはお返ししますから、預かり間、犬はずっと吠えているのです。

その立場に立たない人は、すなわち犬を預かっての訓練をしない人は、何とでも言えます。
「犬がよく吠えている」「狭い犬舎に入れている」「臭いがすごい」
もちろんどれも預託施設として決して良いことではありませんから、十分に考慮し対応するべきです。
でもまるで評論家のような物言いをしているのを聞くと、つい訓練所の味方をしたくなってしまいます。
長時間クレートに入れておくことについての是非もありましょうし、それ以外の管理方法についても、それぞれに一長一短があるのです。何頭もの犬を一緒に自由にしておくことにも、いろいろの是非があります。

 


605預託訓練のメリット
預託訓練のメリット
  犬自身に、しっかりとした訓練を施すためには、無条件に最適な方式です。
手に負えなくなっている場合などは、犬を訓練してもらってから、扱い方を教わる方が容易で効果的です。
近くに良いトレーナーがいない場合、預託方式なら、やや遠くでも可能な場合もあるでしょう。
また、問題行動の矯正を目的とした訓練の場合には、病気の入院治療に似た要素が多くあります。

施設や病院などでも、劣悪な処遇や悪質な事件が明るみになることがありますが、それらを理由に入院をさせるべきではない、通院で治すべきだとはなりません。
入院治療と通院治療のどちらがよいかという判断は、まず病気によって、また症状やその治療方法によって 検討されるべき事柄です。
その選択には、家庭環境が影響を与える場合もあります。
毎日、わずかな時間の施術を行なうだけの治療であれば通いで十分ですし、不定期に頻発する発作など、長時間に及ぶ観察や処置が必要なものならば、通いでは当然に不可能です。 通院の際の交通事情も考慮されるでしょう。

 



606伝えることの難しさ
伝えることの難しさ
  学問として行動分析学を勉強なさってきた人であれば、「負の強化」一つを見ても、トレーナーや飼い主に、
いかに誤った理解がされてしまっているのかという現状を、十分にお分かりのことだと思います。
このように、理論を文章で伝えても間違った理解が広まるのですから、実技をただ見て習っただけの理解程度で、それを人に伝えるということに、そもそもの無理があります。

ホールディングやマズルコントロールも、最近では「いけない方法」とされてしまっていることが多くあります。
それこそ、観察力のない人はいくら見ていても無意味です。マジックのタネほど難しいことではありませんが、マズルコントロールを行なう上での一番重要なタネは、マズルを掴む時ではなく離す時にあるのです。
ほとんどの人が効果の表れる瞬間のことや、動きのある部分にしか目がいかないため、それがわからないのです。
きちんと学ばなかった人たちが、誤った理解をしたまま安易に広めた結果、成果が出ないどころか、さまざまな害が表れるようになったことによります。

そもそも「旧来の」と言って紹介される内容は、そのほとんどが的外れなものです。
それは「旧来は、犬の訓練が正しく伝えられてこなかった」のに過ぎません。
通訳の能力が低いがために、誤った情報が広められてしまう場合と同じようなものです。

旧来は、犬の訓練があまり一般的ではありませんでしたし、訓練士は一般に広めるということをしませんでした。つまり啓発とか広報という発想がなかったのです。
職人は、技能を人に教えることを商売として行なっているのではありません。
そのため、これまで広められてきた旧来の方法というのは、訓練に若干関わった程度の、すなわち本質を理解していない第三者が発信した情報によるものなのです。
つまりは、「一般に広めた人が、正しく理解していなかった」だけのことなのです。

ところが現在は逆に情報過多の時代であり、一部の「知ったかぶりの人」により、とんでもない方法までもがネット上に溢れています。
それこそ、そんなものが現在の訓練方法とされた日には、それはそれで、たまったものではありません。



607旧来の訓練から新しいトレーニングへ
旧来の訓練から新しいトレーニングへ
  旧来の訓練と最新の訓練の違いの本質は、訓練者の育成システムの転換によるものです。
犬のためでも、飼い主のためでもなく、訓練者の育成そのものをビジネスとするために導入されたものが、
科学的トレーニングなのです。


犬を訓練する方法だけを学ぶのであれば、それはそれほど難しいことではありません。
訓練の方法は、実に簡単です。犬の行動に応じて賞か、罰かを与える、ただそれだけのことです。
ただし、賞や罰にはいくつかの種類があり、それぞれの特性があります。
大別すれば、生存本能に働きかける一次的報酬(罰)と、相手との関係性に基づく二次的報酬(罰)です。
わかりやすく大雑把にいえば、一次的の代表例はおやつ(体罰)、二次的の代表例はほめる(叱る)です。

訓練の際、どういった賞や罰を使うことができるかどうかは、その人が、何をどれだけ学んできたかによります。
まず罰は、薬と同じで効果がある半面、弊害や副作用も多く、適切に使うには相当の勉強と経験が必要です。
また、相手との関係性によって成り立つ賞罰を用いるためには、犬と信頼関係を作らなければなりません。
ところが、犬と信頼関係を作る方法を学ぶことは、訓練方法を学ぶことほど容易ではありません。

訓練士の技能の半分は、性格を見抜いて、いかに短期間で犬の信頼を得られるのかという能力であると言えます。
訓練士は自らが犬に教えますので、犬との信頼関係を築くことは不可欠なことですので、それを会得するために、
それこそ犬たちと寝食を共にして、たくさんの犬に教わりながら何年にもわたって学ぶのです。

しかし学校やセミナーに通ってドッグトレーニングを学ぶ場合には、そうしたことはできませんから、当然に、
一次的報酬を用いた訓練方法を、「最新の犬に優しい科学的トレーニング法」として習うことになるのです。
そもそもドッグトレーナーは、犬に教えるのではなく人に教えるのですから、犬との信頼関係は必要ありません。

たしかに、どんな犬とでも、ある程度の短期間で信頼関係を築くことができるようになるのは難しいことですが、
飼い主なら一緒に生活している自分の愛犬とだけ信頼関係を築けばいいのですから、それほど難しくありません。
せっかく、飼い主なら教えてもらいさえすれば、愛犬と信頼関係を結ぶことができる状況にあるのです。

しかし、犬との信頼関係を結ぶ方法を教わっていないトレーナーには、それを教えることができません。
トレーナーは自分が教わった「信頼関係を排除した科学的トレーニング方法」を飼い主にも教えるのです。
なぜなら、現在ではトレーナーの養成の多くが、ビジネスとして行なわれているからです。



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