訓練編
呼びの教え方 |
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「コイ」(呼ばれて来ること)の教え方 命令用語としては、「コイ」「オイデ」「カム」などです。 呼ばれたら来ることは、最も基本であり重要な科目でありながら、きちんと教えられている犬は少ないものです。 どなたもが、愛犬を広々とした広場で、思う存分に駆け回らせてあげたい、遊ばせてあげたいという気持ちをお持ちの事と思います。しかし、公園や広場、海岸には、犬の嫌いな人や好きだけど怖いという人、またお年寄りや、子供づれなど、様々な人がいます。 人間嫌いの犬でしたらともかく、人好きの明るい性格の犬でしたら、そうした場は、興味をひく楽しいものだらけなのです。 そうした場所で、呼んでもすぐに来ない犬を放していれば、トラブルが起きる事が当たり前なのです。 本来そうした公共の場所で、犬を放す事は法令により禁止されています。 個々のトラブル自体は、当事者間の話し合いで表面的には解決されますが、その後についてくるのは、 紐をつけている犬たちをも巻き込んだ、「犬を連れて入らないで下さい」という立て看板です。 とかく自分の犬をきちんとしつける事もしない飼い主に限って、うちの犬はいい子だから、おとなしいからと いって、放したがるのです。 絶対に犬を放してはいけません、とは言いませんが、愛犬が交通事故に遭ったり、また他の愛犬家に迷惑を及ぼす様な事故を起こしたりさせないためにも、その前に、呼ばれたら即座に来る様にしつけておきましょう。 多くの方は、生後二か月前後の子犬をお飼いになる事でしょう。 この頃は何も教えていなくても、おうちの人がしゃがんだり、手を叩いたりして呼べばヨチヨチながらも、 とんで来るのが普通です。それが成長につれて、呼ばれても来ない犬になってしまうのです。 もちろん、最大の原因は、犬が成長につれて、本能として自立心が育って来るからです。 しかし、犬が本能として備えているのは、自立心だけではありません。 元来、集団生活をする犬科の動物として身に付けている社会性や、人間との共同生活の歴史の中で育まれた服従性や作業欲など、素晴らしい本能がたくさんあります。それらの有益な本能を上手に伸ばしていくことで、呼びの 科目は、是非しっかりと教えておきたいものです。 犬の能力に目を向けてやる事もせずして、犬にしつけをする過程だけを捉えて、「叱ることは、かわいそうだ」 「犬は自由に育ててあげたい」といった、一見、心の優しい大変に理解のあるかのごとき愛情を注ぐ人もいます。 そうした、犬の本質を知らない飼い主に限って、犬の健康を害する様な食生活を平気でさせていたり、 犬をペット扱いし、人間の愛情を一方的に押しつけるだけの存在にしてしまっています。 「何の仕事も与えられずに、何をしても叱られる事もなく、別に良い事をした訳でもないのに、尻尾を振って 近寄っただけで誉められる。」バカ殿様ならいざ知らず、まともな神経の人ならば怒りだすようなそんな扱い方で犬と付き合っているのです。 そのような不必要に犬の自立心のみを増長し、肝心な素敵な家族の一員となりえる、その犬の持つ優れた能力を、飼い主自ら潰してしまう様な飼い方、育て方に問題があるのです。 そして、充分な愛情を持って犬と一緒に遊んであげないから、更に言うならば、犬の興味を飼い主に向けさせる 努力をしないから、犬は、よそにばかり行きたがるのです。 招呼の訓練とは関係のない様な話が大変長くなりましたが、「呼ばれてすぐに来る犬にする」という事は、 ある見方をすれば、訓練の一科目とする事自体に問題があるほどに、しつけ・訓練などといった以前の要素が 大きいのです。 犬種によって、あるいは、その犬の性格によって、これほど教えやすさに差のある科目はないかもしれません。 何も苦労して教えなくても、飼い主の傍から離れない犬もいる反面、訓練士ですら、教え切れない犬もいます。 それだけに、教えにくい犬種をお飼いの方は、幼犬期からの育て方に充分に気を配って下さい。 常に念頭に置いて頂きたいのは、次の2点です。 『追えば、逃げる。逃げれば追ってくる。』 『犬が手元に来た時は、決して叱らない。』 「犬を放すと、呼べば近くまでは来るのだけれど、手元に来ないので、捕まえられない」 これが、一番多い相談の内容です。 本筋から言えば、まず、呼ばれても来ない様な犬を、放す事自体がどうかしています。 「呼ばれても来ない様な犬」と犬を悪く言う表現をしましたが、これは正しくありません。 「呼ばれたら来る事を教えてあげもしない人が」というのが本当です。 平素、家庭で子供にきちんとした箸の持ち方すら教えていない親が、 一流レストランのフルコースのディナーに 連れていき、マナーがなってないといって、子供を叱る様なものです。 次に、犬の気持ちになってもう一度、相談の文面を読んでみて下さい。質問が如実に語っています。 「犬を放すと、呼んだ時に近くまでは来るのだけれど、手元に来ないので、ほめてあげられない」、 と言っているのではないのです。あなたが犬ならば、せっかく、自由に 遊んでいるのに、どうしますか? 捕まえようと思って呼ぶから来ないのです。 いらいらしながらも何度も呼んで、そのうちやっと捕まえた途端に、「何ですぐに来ないんだ」と言って、 犬をパチンと叩くのです。どう考えても、これでは、犬が来る様になる方が不思議と言うものです。 前述の通り、犬は、毎日の生活の中で自然に学習するのです。飼い主はとかく意識していませんが、 犬にすれば、「呼ばれて行ってみたら嫌な思いをした」という経験は意外に多いものです。 例えば、行ったら、その途端に叱られた。(飼い主は、その以前に犬が行なった、いたずらや、 粗相を叱ったつもりでいるのですが・・・。)行ったら、鎖に繋がれた、犬舎に閉じ込められた。等々。 さらに悪い事に、まだ子犬が呼ばれてすぐに来る頃は飼い主の側は、「呼ばれたら来るという事」など、 「当たり前の事」位にしか思っていませんから、たいして誉めてもあげていないのです。 大切な事は、犬の思考回路の中で、「呼ばれて行った」行動と、「不快なことが起きた」結果とを結びつけ させない事なのです。そのためには、犬が呼ばれて来た時に傍から見ればバカみたいな程に誉めまくって、 犬の意識を変えさせる事が必要なのです。 犬を捕まえる事を急ぎすぎると、犬は逃げる事を覚えてしまいますから 、誉めまくっている最中に何気なく、 身体を撫でてやりながら首輪を掴んで、紐をつけます。またこの時、多くの人が、紐をつけた途端に安心すると 共に、急に高飛車になるがために、犬は、紐を見た途端に逃げ出す様になる、という失敗を重ねてしまいます。 紐をつけてすぐに誉めるのを止めてしまっては、意味がありません。 科目としての教え方とすれば、通常は、「座れ」や「待て」を教えた後になりますが、それ以前から、 犬が飼い主から離れていこうとした機会を 利用して教える様にしましょう。 時期としては、子犬が、首輪や、引き紐にある程度慣れた頃から、少しずつ始める事が良いでしょう。 くどくなりますが、この段階で大切な事は、手元に来た犬をいかに喜ばせてあげることができるかどうかです。 口先で「ヨシ、ヨシ」と言いながら、形式的に撫でている方が多いのですが、 犬が喜んでこそ初めて、ほめたと言えるのです。 そしてこの初歩の練習は、「待て」を命じた状態から犬を呼ぶ科目の訓練に比べて、 犬の気持ちがよそに行きたがっている時に行なう分、数段難しいとも言えるのです。 紐の長さと、伸ばした腕の長さの、計2メートル。まずはこの範囲で、確実に教え込みましょう。 犬に引き紐を付けた状態で、犬を自由にさせます。 この時点で犬がすぐにあなたから離れようとするならば即座に、また、犬があなたに纏わり付いて傍についたままならば、何か犬の興味を誘う物がある方に歩きながら、犬があなたから離れる様に仕向けて、 右手で引き紐の輪を掴み、犬の進行方向に、2~3歩ついて歩き、右腕を前方に水平に伸ばす事により引き紐をたるませ「コイ」の 声符と同時に、右手を、瞬間的に振り下ろします。(この時の、右手の動きが、招呼の際の視符の合図です。) 感覚的には右手に握ったボールを後方に投げるつもりで行なって下さい。 そしてすかさず、左手で紐の中央部を持ち、同様に瞬間的に引き込み、 犬を呼び込みます。 初めのうちは、数歩後退りしながら、紐をたぐり寄せる要領で、もう一度、右手で引き紐のナスカンの近くを 持って引き寄せて、犬を完全に手元まで誘い込む様にすると共に大袈裟な位に誉めて、遊んであげます。 段階が進むにつれて、呼んだ後、犬がきちんと座ってから誉める様にしなければいけないのですが、 初めから、幾つも犬に要求する事は、 結果として無理強いすることになりますのでこの段階では、 「呼ばれて行けば、飼い主が喜んで遊んでくれる」と言う印象を犬に与える事だけに専念して下さい。 これを繰り返し教える中で、紐を引かなくても、「コイ」の声符だけで 犬が来る様にしていきます。 そのためには、声符と、腕を振り下ろす事により犬に伝える首へのショックとが、同時でなければ、 犬にはこの二つが結びついて印象付きません。しかし逆にほんの僅か声符の方が早くなければ、 いつまでたっても紐を引かなければ来ない犬になってしまうのです。 声符だけでできる様にするためには段々に、伝えるショックを弱く、また 少なくする事はもちろんですが、 声符を掛けた瞬間の犬の反応に良く注意を払い、もし犬が自主的に来る気配を示した時は、 すかさず鼓舞激励して犬に自信を持たせる事が大切です。 これらの練習も、他の科目同様に、初めは、周りに犬の気が散るものの少ない所を選んで行ない、 徐々に誘惑のある所でもできる様にします。そして、引き紐の距離であれば犬を自由にさせておいても、 呼べば確実に飼い主のもとに戻る様になれば、次の段階として、今度は少し長めの紐を使って練習を重ねます。 |
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