別の例えでいえば「加点法」と「減点法」です。 コップに水が半分はいっています。 まだ半分もあるとポジティブに考えるのが加点法的な発想で、 もう半分しかないとネガティブに考えるのが減点法的な発想です。 加点法的教育方法は、好ましいところを見つけて、褒めて伸ばしていきます。 減点法的教育方法では、好ましくないところを見つけて、直していきます。
人の横にぴったりと付いて歩く、脚則行進という訓練科目があります。 彫塑方式、あるいは加点法的指導方法ですと、 犬が横にいる状態から、まず一歩、犬を誘いながら歩いて、もし犬がついてきたらほめてあげる。 上手に一歩が歩けたら、次は二歩、三歩と少しずつ距離を伸ばしていきます。 いわゆる「ほめて教える」です。
彫刻方式・減点法的指導方法ですと、リードをつけた犬を自由にさせて自分は歩き始めます。 犬がリードの長さ分だけ離れたら、リードを引いてショックを与えます。 そして次第にリードを短く持つように変えていき、犬が離れる距離を短くしていきます。 いわゆる「叱って教える」です。
こうして文章を書きながら、ふと思いました。きっと誰が読んでも前者の方が断然良いですよね。 でも私は、どちらかと言えば後者の方をお勧めしています。 前者では、横をついて歩いているといいことがあるということを学ぶだけで、引っ張ってはいけないことを 教えていません。大きくなってから、突発的に引っ張るようになってしまうと、直すことが困難だからです。
そしてまた、犬の行動の全てが、人が教えたことによってのみ行なわれるのであれば、 つまり何も教えていない犬は、何の行動も起こさないのであれば、加点法的な教育だけでも可能かもしれません。 しかし、実際はむしろその逆で、犬は何も教わらなくても、本能に基づいて、ありとあらゆることをするのです。 長所を伸ばすことはとてもいいことでしょう。しかし、悪い面をそのままにしておくことには賛成できません。
そのままにしておけば、そのうちに消えてなくなる悪い面もあれば、下手に直そうとして一層に悪化させてしまいがちな悪い面と、
そのままにしておくとどんどん大きくなる悪い面と、これもまたそれぞれです。
また別の理由として、どちらが厳しく制約しているのだろうかという疑問です。 一緒に生活を送る上で、してはいけない事と、していい事のどちらが多いのでしょう。 これとそれとあれはしちゃダメだよ、あとは好きにしていいから。 これとそれとあれは好きにしていいよ、あとはしないようにね。 どちらが自主性を重んじているのか、どちらが縛りつけているのかよくわかりませんが、 私の感覚では前者の方を好みます。 おそらく、「禁止されたことだけは、しないように」という方が、「許可されたことだけを、するように」、 という方よりも自由の幅は広いように思いますし、個性や能力も発揮されやすいのではないでしょうか。
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