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犬は訓練することにより、多くのことをできるようになります。 ところが勘違いをされている方が多いのですが、訓練の科目をいくら教えて、犬がそれを覚えたからといって、 犬が、飼い主のいう事をきくようになる訳ではありません。
「できる」という事と「する」という事は、全く別次元の問題です。 「できる」というのは能力の問題であり、 「する」というのは意志の問題なのです。
「する」ためには、どういった事が必要かを考えてみましょう。
まず、相手のいっている言葉がわからなければなりません。
あなたにしても、コピーをとるような簡単な用事であっても、相手からドイツ語やスペイン語で言われたのでは、
何をすればいいのかさえもわからないのですから、する事はできません。
次に、できない事は、しようにも、しようがない、という事です。 コピー一つにしても、コピー機の操作方法を知らなければ、それを教わらない限り、する事はできないのです。
もう一つは、全く逆。 相手のいう事をきく気にならない場合です。 相手が何を要求しているかもわかるし、その事柄をする能力があっても、言われた相手によって、 またはその時の気分によってはいうことをきかないという場合です。
つまり、人間の号令の意図する事を理解させ、コピー機の取り扱いを教えるのが、いわば訓練です。 その後、あなたの指示に従って、コピーをしてくれるかどうかは、あなたと相手の関係の問題なのです。
一般に、訓練士が行なう訓練というのは、先の二つを教える事でしかないのです。 三つ目の点に関しては、訓練士に教わりながら、自ら、「犬との良い関係」を作る必要があります。
人間であっても同様のことは言えるでしょう。 会社で上司にコピーを頼まれれば、ほとんどの人がすることでしょう。 部下の立場からいえば、尊敬する大好きな上司の指示であれば、喜んでコピーをとるのです。 しかしながら、たとえ上司といえども、無能な上司や、嫌いな上司に指示されれば、 「その書類のコピーをとるのは私の仕事ではありません。」と言い出す部下もいるでしょう。 そこで一つ殴れば、しぶしぶ従う部下もいるでしょうし、逆に殴った事をとらえて、大問題に発展させてしまう 部下もいるでしょう。
また自分の部下に言われてどれだけの人がするでしょうか。機嫌のいいとき一度や二度はするかもしれませんが。
好きな人や、厳しい人のいう事はきくけれど、嫌いな人や、自分より下位の人のいう事はきかない。 「すれば、何かいい事があるなら」とか、「しないでいても、結局はやらされるのがわかっている」、 「しないと何か罰せられる」という場合は、案外いう事をきくのです。
犬の訓練、しつけを考える時に、最も大切なことは「あなたと犬との関係」にあるのです。 いかにいい関係を築くか、否かが、全てを決めるといってよいでしょう。 犬を芸人に例えれば、飼い主は、そのマネージャーでなければなりません。 ところが、多くの飼い主は、付き人にしか過ぎないのです。芸人が、付き人のいう事をきくと思いますか?
犬に対して、リーダーシップをとる事のできるタイプの人が、さほど支配欲の強くない犬を飼った場合、 特に訓練等しなくても、良くいう事をきく犬になるのが普通です。 しかしその逆に、犬に対してリーダーシップをとる事のできない人が、支配性の強い犬を飼った場合には、 訓練所に預けて、いくら訓練を施したところで、犬は飼い主のいう事を、ほとんどきかないのが普通です。 それどころか、飼い主と犬との上下関係を変えないままに、「訓練ができているのだから」などという、 安直な発想で、急に高圧的に命令をしようものなら、自分より下位の人間に命令をされた犬にすれば、 逆に唸って、飼い主を脅す様になることさえもあるのです。
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