教える側による違い 犬に関わるプロと言っても、ペットショップ・獣医師・看護士・訓練士・インストラクター・ハンドラー 審査員・美容師・ブリーダー、動物専門の文筆家や、行動心理学の専門家などもいます。 そしてさらには、しつけや訓練の専門家に限っても次に挙げる様々な理由から、それぞれに異なる意見があります。 ・目的の違いによる専門性の違い : 家庭犬の訓練と使役犬の訓練 ・経歴により学んできたことの違い : 方式に伴う制約の有無 / 実技主体と理論主体 ・個人的な能力や経験による違い : 個人差・資格取得が容易であるほどに個人差は大きくなります。 ・思想や考え方、感性による違い : 犬観の違い 【 放任型・溺愛型・管理型 】 |
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診療は全科ですので、相当に広範囲の勉強をしています。 医療や医療機器は日進月歩で進歩していますので常に勉強に追われますし、患畜を抱えていればしつけや訓練の勉強どころではありません。 人間の精神科医のように、犬の問題行動に専門的に取り組んでいる獣医師もいます。 薬物療法が必要な場合には、獣医師以外にはできません。 |
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獣医師の補助業務や看護が仕事です。 動物系の専門学校などで、犬猫を主体に動物の看護や保定技術などを勉強してきています。 |
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犬の美容(グルーミングやトリミング)が仕事です。 動物系の専門学校などで、犬のトリミングなどを勉強してきています。 |
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販売が仕事です。犬が好きな人ではなく、商売が好きな人でないと経営は成り立たないかもしれません。 そこで働く店員さんにしても、正しい知識を持っていたら、おそらくそれは相当の葛藤になることでしょう。 多くが、動物系の専門学校などで、さまざまな動物の飼養管理方法などを習ってきています。 |
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繁殖が仕事です。少なくとも生体管理に関しては一人者であるべきですが、ブリーダーという職業自体も、あらゆる面において非常にピンからキリまでの世界です。 残念ながら、素人同然の人も多くいる業界です。 |
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しつけの専門家だと思ってしまう方が意外に多いのですが、獣医師・ブリーダー・ペットショップスタッフなどのほとんどは、犬のしつけや訓練に関しては門外漢です。 |
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多くの人が、ドッグトレーナーと自称しますが、資格発行団体によって名称が違います。 このような資格を発行している団体は非常に数多く、その教育内容や認定についての基準もありませんので、知識においても技術においてもアマチュア以下の人もたくさんいます。 また、風評や愛犬家の持つイメージも考慮して、ドッグトレーナーと名乗る訓練士も多くいます。 インストラクター(指導者)、ビヘイビアリスト(行動カウンセラー)、カウンセラー(相談援助者)アドバイザー(助言者)ですが、名称以外は大差ないように思えます。 |
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訓練士とトレーナー・インストラクターなどとの違いについては、別に述べます。 トレーナーが教える相手は主に「人」であり、犬の飼い主に「犬のしつけ方」を教えます。 |
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訓練士も警察犬・救助犬・盲導犬・家庭犬などそれぞれに違います。 訓練士が教える相手は、主に「犬」です。 使役犬や家庭犬として飼育される犬に、「作業」や「しつけ」を教えます。 ( 使役犬の多くは、教え手と扱い手が共に本人ですが、家庭犬や補助犬は、扱い手が飼い主やユーザーですので、 扱い手となる人に教えることも、きちんとできなければなりません。) |
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訓練所、専門学校、トレーナー養成団体、独学など、どこでどの程度に学んだのかも多種多様です。 この先で述べますが、方式や制約による違いによって、本人たちが習ってきたものがまるで違います。 |
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訓練士の多くは、訓練所に何年間か住み込んで勉強します。 犬に教えることが主体です。 経験もそれなりにあって犬に教え込む技術もありますが、訓練所には犬を施設で管理する所が多く、一般家庭の生活と懸け離れていることから、ともすると、家庭犬のしつけに求められるものとの違いが生じがちです。 一般論からいえば、大型の家庭犬の扱い経験が豊富ですが、実技優先で、知識に欠ける傾向があります。 |
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上記の訓練士と下記のインストラクター等が、混在しています。 中には、両者の欠点を補う中間型の人もいますが、全体的にいえば両者の欠点を寄せ集めた中間型やどちらにもなりきれない中途半端型も多く、まさに玉石混交です。 また、実態不明な海外施設での経験を売りにしている人もいます。 訓練所や学校に通って勉強する人、しつけ教室の助手をして学ぶ人、通信教育と短期研修で学ぶ人とそれぞれです。 近年は動物系の専門学校で学ぶ人も多いようですが、ほとんどが教室での座学による知識で、実技の授業は少なく、教材犬の諸事情などもあり、犬の訓練経験というよりは扱い経験という程度のものです。 |
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多くが、教本による学習とセミナーの受講といった知識による勉強です。 技能は、セミナーでの実演見学やビデオ学習、あるいは、しつけ教室の見学やアシストといった方式で学びます。 しつけ教室の運営ガイドやQ&Aなどの教育も受けており、飼い主とのコミュニケーション能力の高い人が多いです。 |
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通学と住み込み あたりまえのことですが、犬には、必ず日常の世話をする人が必要です。 そして、その人とはもっとも信頼関係を結びやすく、その人からさまざまな影響を受けると共に学習するのです。 つまり、通学方式で犬の訓練を学ぶということは、そのような環境にある犬の扱いしか勉強できないのです。 訓練所のように、弟子として住み込みで24時間を犬と共に過ごすのであれば学ぶことのできる方法であっても、 学生として、週5日、朝から夕方までの教室での授業といった方式では、学ぶことのできない方法があります。 それは、犬との信頼関係に基づく訓練方法です。 住み込みでの預かりの犬を訓練する訓練士は、その犬を毎日、自分が世話をしながら犬との信頼関係を築きます。 それだからこそ、信頼関係に基づく訓練方法を学ぶことが出来るのです。 しかし学校での授業で習う場合には、教室での限られた時間だけしか、その犬と接することがありませんし、 そもそも、その犬には、授業以外のほとんど全ての時間を世話をしてくれている人が別にいるのですから、 学生たちが、それらの犬たちと信頼関係を築くことは非常に困難です。 そのためトレーナは、学校で、信頼関係を築かなくても教えることのできる方法を教えられているのです。 飼い主ならば、犬と一緒に暮らし世話もしていますので、信頼関係に基づく方法で教えることが出来るのですが、 トレーナー自身が、その方法を教わっていませんから、飼い主に対して、自分が習ってきた方法を教えるのです。 トレーナーが犬に教えるのなら、信頼関係を必要としない方法を選ぶことも止むをえないのかも知れませんが、 飼い主自らが犬に教えるのであれば、信頼関係に基づく訓練方法を選ぶべきだと思います。 そうでなければ、あまりにもったいないことです。 個別指導と集団指導 マンツーマンでなければ教えられないことも多くあります。 犬の訓練では、次々に起きる犬の反応に対して、即座に適した対応をしなければなりませんので、 実技に関しては、ほとんどつきっきりでなければ教えられないことの方が多いとも言えます。 そのために、学校のように大勢に教える場合には、座学で行なうことのできる理論主体となります。 |
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愛情表現は人それぞれであり、教育方針もまた人それぞれです。 犬の勉強を始める以前からの生育環境などによるものと、犬の訓練を習った所で刷り込まれたものがあります。 思想や主義については当然に、どちらかが正しく、どちらかが間違えているというわけではありません。 双方の意見をきちんと吟味し、それぞれの利点と欠点を知った上で、各自が決めればいいのではないでしょうか。 |
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この意見の違いは子供の教育でもスポーツの世界でも企業でも、それこそどこででも見られるもので、個人の育ってきた環境や自身の経験によるものも大きいのでしょう。 しかし、管理や規制は最大限の自由を守るためのものであることを知らなければなりません。 また、真の自由社会というのは、弱肉強食の社会なのです。 |
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犬が自発する行動には、人間社会に適したものと、不適なものとがあります。 自発的であるから、自由意志によるものであるとは言えません。 強制なき訓練は、訓練にあらずと言われています。そもそも勉強とは、強いて勉る(しいてつとむる)ことです。 その事の良さや、おもしろさを知るのは、一時期強制されてでも身に付けた後のことなのです。 |
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これは、実際には並列に比較することではないと思っています。 言うならば、教育は科学的であるべきか否か、ということでしょう。 もし並べるのであれば、精神論vs.行動学とでもするのでしょうか。 |
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大別すると、放任型・溺愛型・管理型の三つになります。 【 放任型 】 犬の本能に人為的な介入を好まず、犬を訓練することにも何がしかの抵抗を感じるようです。 犬牧場や動物王国のような、犬同士の集団社会が犬本来の生き方であるように思っているようです。 自然のままに、のびのびと、自由に、犬らしくといった言葉を多用します。 中型犬や日本犬を好む方が多く、昔ながらのもっともオーソドックスな犬の飼い方をされる人に多くいます。 【 溺愛型 】 犬に対して、我が子同然、あるいはそれ以上の溺愛をする人もいます。 小型犬の飼い主に多く、愛犬をちゃん付けで呼び、洋服を着せたりすることを好む人も多くいます。 もっともペットロスになる危険性の高い人たちでもあります。 犬に癒しを求める、あるいは、犬を動く玩具のような扱いが見受けられます。 【 管理型 】 犬は最良の友ではあるが、あくまでも人間とは一線を画すという人たちです。 イヌは訓練されて初めて犬になる、という感覚で、中大型の犬を室内で飼うことを望むタイプの人です。 |
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教える方法については、教える際に受ける制約の有無によっても違います。 教える時間そのものが制約される場合には、限られた時間であってもできる内容や方法が選ばれますし、 同様に、教える場所が制約される場合には、そこの場所であってもできる内容や方法が選ばれます。 しつけ教室で、多くの飼い主に同時に教えようとするのであれば、当然にその教える内容や方法は限られます。 あなたが犬に教える際にも、ご自身の都合によって教える方法を選択することと思います。 子犬のうちは3時間ごとにトイレに出してあげて、いたずらをしないように24時間犬を見ているという方法が、 一番確実な、犬にとっても良い方法だとしても、共働きのご家庭でそれを実行することは不可能とも言えますから、 日中の留守が長くてもできるような、なにがしかの方法を選ぶはずです。 残念ながら、教育が商売となり、人々が楽で簡単を求めるがために、優先されるのは教える側の都合です。 トレーナーやインストラクターが飼い主に教える際にも、教える側の都合で教える内容や方法を選択しています。 飼い主が犬に教える際には「安易楽」が選択され、トレーナーが飼い主に教える際には「利益」が選択されます。 こうしたように、選択される方法というのは、さまざまな制約の中での最良な方法にすぎないのであって、 教え手の都合や利益を外して考えれば、なにもそれが決して最良の方法などでは無いことがたくさんあります。 ・授業時間と日常生活 ・ホームとアウェイ ・期間の制約の有無 |
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[ 授業時間 or 日常 ] |
[ 授業訓練vs.機会訓練 ] 一日中、一緒にいるのであれば、機会を捉えて都度、良し悪しを教えてあげることもできますが、区切られた時間内で教えなければならない場合には、それに適した内容や教え方が選ばれます。 |
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[ ホーム or アウェイ ] |
犬を人も場所や状況によって見せる面が違いますし、行動も違うことは、おそらく誰もがご存じのことと思います。 犬の訓練においては、多くが弁別という言葉で説明されますが、これらには学習によって生じるものと、それ以前に本能や感情、性格に起因するものも多くあります。当然にそれに伴って、教える方法は違ってきます。 |
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[ 短期 or 長期 ] |
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教える側が、相手にどれだけの手間と時間をつぎこんで関わることができるのかによって、 教えることのできる内容や方法は違ってきます。 もっとも制約がないのは、自身の愛犬です。いつ頃までにどの程度まで教えなければいけないこともありません。 一緒に暮らしていますから、いつでも教えることができますし、どこにでも連れ出て教えることもできます。 そのため、人間の都合という制約にとらわれることなく 、最良な方法を選ぶことができます。 たとえば訓練士が、お預かりして訓練する犬の場合には、期間の制約がありますし、 出張して訓練する犬の場合には、さらに時間という制約も加わります。 しつけ教室のように飼い主に教えて家人になさっていただく場合には、 その飼い主に可能な手法を選択するという制約もあります。 授業時間と日常生活 [ 授業訓練 ] 教える側の都合に合わせた時に行ないますし、授業時間に合わせて区切りのつく方法を選びます。 いわゆる勉強のように、何かをできるようにするのであれば、集中できる時間の限度なども考え合わせると、 むしろこうした方法の方が適していると言えるでしょう。 [.機会訓練 ] 犬は自らの体験を通じて、常にさまざまなことを学習していることを考えれば、しつけは、日常の生活の中で、 犬が何かをした機会をとらえて、ほめたり叱ったりして教えていくことが、ある意味で理想的だと思っています。しかしそれでは、24時間ずっと犬を見ていてということになってしまい、現実的ではありません。 でも実際の子供のしつけであれば、一般に、この機会がある毎のしつけがなされます。 早く起きなさい、布団を畳みなさい、歯を磨きなさい、服を着替えなさい、ご飯を食べなさい、 いただきますを言いなさい、残さずに食べなさい。 学校から帰ってくれば、また、この調子が寝付くまで、さらにはそれが毎日、それこそ何年も続くのです。 そう考えれば、短期間ですむ犬のしつけは、何て楽で簡単なのだろう、犬ってすごいなと、改めて思います。 ホームとアウェイ 場所が違えば見せる行動は違うことは、ある意味では当然です。 自宅で起きる問題行動の多くが、連れてこられた教室という場所ではほとんど見られないことが普通です。 教室内であれば逸走の心配もありませんし、また、誘惑となるものもあらかじめ排除できます。 何よりも、これまで問題行動を強化してきた要因がありませんから、新たな行動を教えるには最適な環境です。 弁別刺激によって、犬も教室の場ということを理解します。 期間の制約の有無 プロとして行なう上では、お客様の費用対効果を考慮せざるをえません。飼い主が自ら行なう場合には、 こうした制約はありませんが、むやみに期間を掛けることは、あるい習慣を長く続けさせることで、いっそうに 直しにくくなりますし、せっかく子犬の時期から始めても、犬の成長は早く肝心の時期を逃すことになります。 学校教育と家庭教育 人間であれば、子供の教育は主に親が主体となり、学校や地域、社会などにより行なわれます。 家庭での教育と、学校での教育とでも、さまざまな制約の違いがあります。 家庭では、マンツーマンに近い形で、時間や期間の制限をほとんど無しに、教えることができます。 家庭では、子供が成人するまでの長い期間ずっと一緒に生活をしながら、習慣としても教えることができます。 学校では、大勢を同時に教えられますが、時間や期間、それに校内といった場所の制約も受けることになります。 学校では、専門の知識を持った教員が教えてくれますし、大勢で学ぶことで競争といった刺激も生まれます。 それゆえに、家庭でなければ教えられないこともあれば、学校でなければ教えられないこともあります。 家庭教育と学校教育には、それぞれに役割があります。 いわゆる、勉強だけであれば、親によっては学校に行かせずとも教えることができるでしょう。 しかし、集団生活における規律などといったことを、家庭内だけでは教えることは困難です。 そして逆に、日常生活での規律や道徳を、学校で教えるとなれば、おのずと限界があります。 学校教育においては、学校という限定された場所で、日々の限られた時間でしかその子を見ることができません。 しかも、同時に多くの子に教えなければなりません。 |