540二次性の賞
二次性の賞 

ほめる

541ほめるって何でしょうか?
ほめるって何でしょうか?
   
「ほめて教える」確かに耳当たりのいい言葉ですが、最近ではいやになるほど耳にします。
そもそも、ほめるとはどういうことなのでしょうか?
簡単に言えば、行ないを優れていると評価して伝えることでしょう。
ここでは、なぜほめるのか、どのようにほめるのか、なぜ褒められると嬉しいのかについて、
きちんと考えてみましょう。

人はなぜ相手をほめるのでしょうか。
ほめる理由は、多くの場合は相手が良いことをしたからであり、それにより自分が嬉しかったり、
利益があったりするからです。そしてその目的は、さらに良いことをするようにと望むものであったり、
他者の同調を期すものであったりもします。
その方法は、人間であれば言葉でほめたり、表彰したり、金品を贈与したりなどが一般的であり、
それらによって褒められた側は、精神的、社会的、あるいは物質的な欲求が充足されます。

私たちが相手をほめるときに、感心してほめる場合と、評価としてほめる場合とがあります。
一般的には、前者は下の者から、後者は上の者から行なわれます。
また前者には内心的、後者には外形的なイメージがあります。
前者には感嘆の声や拍手も含まれますし、後者には表彰なども含み、指導的見地で行なわれたりもします。
ほめるのは一般的には、良いことをした時、素晴らしい時でしょうが、その水準は、相手の能力を認めているか否かによって違ってきます。期待していない相手であれば、失敗しても腹を立てることも少ないのです。
すなわち見方を変えれば、相手の能力を過小評価している人ほど、心からほめることができるのです。

犬をほめるのには、良い行ないをしたことをほめる場合と、行動の過程で、その行動を奨励してほめる場合とがあります。犬を褒める方法には、オヤツなどの物質的報酬を与える方法と、物質的報酬を与えないで、いわゆる褒める方法があります。 この二つの方法は、働きかける本能が違いますので、当然に伸ばす本能も違います。

「ほめて教える」と「餌を使う」事は、断じて同じではないのです。
心理学者マズローの欲求段階説で考えれば、食べ物を使って教えることは、生理的欲求を充たすことであり、
ほめて教えることは、安全の欲求、所属と愛の欲求を充たすことなのです。
力のある者にほめられることは安心感をもたらすことで、安全欲求を充たします。
ほめられることにより有用感を得ることは、集団社会を形成する社会的動物が持つ所属欲求を充たすのです。

そしてまた犬には、愛の欲求もあります。
愛されたいというのは子供の本能であり、犬も人間もそうですが、動物の赤ちゃんというのは非常に愛らしい
姿態をしています。なぜなら愛らしくなければ生きていけない、つまり、愛され保護されなければ、自分だけで生きていく力がないからなのです。
ほめることは、相手に愛されているという自覚を与え、精神的安定を与えるのです。

しかしそれは、相手との関係性にも大きく左右されます。
好きな相手か嫌いな相手かによって、頼りになる相手か頼りにならない相手かによっても、
大いに賞としての効果が違ってきます。あなたにしても、好きな人に撫でられれば嬉しくても、
嫌いな人に撫でられるのは嫌でしょうし、恐怖や不安の時に、何の力もない人に「大丈夫だよ」と言われても、慰めにはなっても、安心することはできないでしょう。

そもそも、ほめられることが有効なのは、他者の感情を認知し共有することができる動物だけなのです。
行動研究によく用いられるハトやネズミに対し、言葉でほめたり撫でてやっても効果は期待できないでしょう。
犬は相手の心の存在を理解する高い知能と、豊かな感情、そして人間との長い共生の歴史を持ちます。
せっかくのこの素晴らしい能力を活かさないことは、犬に対する侮蔑だと思うのは私だけでしょうか。


ほめかた

ほめ上手こそ、教え上手です。
ここでは、餌やボールを使わずにほめて教える方法で話を進めていきます。
純粋にほめて教えることは、たしかに簡単ではありません。
声掛けや愛撫がご褒美となるためには、あなたが犬に好かれ、認められ、頼られていなければならないのです。
でも、その努力の結晶こそが「絆」なのです。

基本的には、声掛けと、愛撫や愛打が中心になります。
普段の生活の中で、犬の体を愛撫してあげる時に、「よしよし」「いいこだね」などの声を掛けてあげているのであれば、犬にも伝わりやすくなります。
褒めるというと、高い声を出すこと、大きな身振りをすること、身体を撫でまわすことだと思っているかのような人もいますが、褒めることは、興奮させることや、はしゃがせることではありません。

褒めることは、相手の優れた行動を評価し、それを伝えることです。
ほめるには、その意味合いを踏まえて使い分けが必要です。
そのためには、幾通りかのほめ方を身に付けなければなりません。
犬がきちんとできた時に、犬があたかも達成感を得られるような喜ばせるほめ方。
犬の正当な行動を誘導するように、「そう、それでいい」という気持ちで犬に安心感を与えるほめ方。
犬が何かに怖がっている時に、不安を取り除くべくなだめるほめ方、自信を持たせるべく、鼓舞激励するほめ方。等々、犬が喜んでこそ、犬が安心感をもってこそ、初めて、褒めたといえるのです。
状況に応じて、タイミングよくほめることも大切です。

まず喜ばせるほめ方ですが、日本人の特性でジェスチャーが 無い事、感情をあまり顔に出さない事が原因なのか、
それとも単に照れ性なのか、ともかく下手な人が多いです。
重要なことは、まずあなた自身が喜ぶことです。
教え始めの段階においては、これぐらいできて当たり前だなどと思わずに心から喜んで、ほめる様にして下さい。犬との信愛関係が築けていれば、あなたの喜びが犬の喜びになります。

行動の結果に対して、好いこと嫌なことを賞罰として与えるだけではなく、行動の途中において
「それで合っているよ」「それは良いことだよ」という事を伝えることも褒めることです。
この場合のほめ方は、「そうそう」「いいよ」などの言葉を、優しく穏やかな口調で掛ければ良いでしょう。
このときに、あまり喜ばせるようなほめ方をしてしまいますと、犬がせっかくやりかけている行動を、ほめて貰いたさに放り出してしまうことになりかねませんから注意が必要です。

愛撫は、その犬が喜びさえすれば、どこをどう撫でてやってもいいのです。
しかし、犬に何かを教えることを考えれば、当然にそれなりに適した撫で方があります。
犬と飼い主との親和がとれていれば、犬は、撫でられた側に身をすり寄せてきたり、撫でられた部位を伸ばしたりするのが普通ですから、犬を人の左側につけて歩くことを教える時には、犬の右の頬を、あなたの左手の甲で撫でてやるのが、最も楽な姿勢で、自然にできます。

停座の時に、頭を垂らしてしまうタイプの犬には、鼻梁(口吻の上部・鼻と目の間)部を掻いてやるとか、
喉元から下あごに向けてさすってやったりします。
また、伏臥を教えていて、不安から立ち上がってしまいそうな犬には、地面の側から手を伸ばして前胸部を撫でてやるといった具合に、その犬の性格はもちろん、その都度の心理状態を考えながらほめてあげます。
ほめ言葉と同様に、愛撫や愛打も程度が重要で、撫でる人の手の動きに興奮して、犬がはしゃぎ廻ったりするようでは、何をほめているのか、何を教えているのかが、わからなくなってしまいます。
しかし強制をした時には、犬と一緒に勢いよく走り出してやったり、転げ回ったりという、犬の気分転換をも含めた遊びを取り入れるほめかた等の工夫も必要です。

初めのころは、愛撫をするとき、常に声をかけながらするようにします。
「そうそう」「グッド」などの言葉と、心地よさを結びつけることで、それがほめ言葉だと犬が理解するのです。
犬との良好な関係を築きさえできれば、最終的には、「よしよし」「グッド」などの言葉をかけてあげただけで、いや、「い」の発音をする時のように、あなたの口唇の両端を横に引いただけで、すなわちあなたの笑顔だけで、犬は充分にほめられたことを実感できるようになるのです。





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