550二次性の罰
二次性の罰       無 視


561無視してください
無視してください
「アメとムチ」と言われた動物の調教も、時代が変わって、今では「エサとムシ」の様相です。
大型犬の夜中の吠えの相談に対しても、平気で「無視してください」と答えるトレーナーさえいます。
そもそも無視するということは、容認するということです。無視が有益となる条件すらも知らないままに、
何に対してでも、無視してくださいと言うのは、あまりにも無知か無責任でしょう。

体罰を否定する人たちの一番のおすすめが「無視」です。
しかし、この無視についてさえもきちんとした理解がなされているとは言えません。
多くの人が、「無視」という社会的制裁行為と、「無反応」という消去の手続きとを混同させてしまっています。 無視と無反応は似て非なるものです。
行動分析学で言うならば、無視は負の罰であり、 無反応は、好子出現による行動の強化という手続きを中断するということ、すなわち消去です。

多くの人が「犬が好ましくない行動をした時には無視してください」と述べています。
しかしこれは、まぎれもなく容認もしくは黙認ということです。ましてや、問題となる行動の多くは、
その行動自体が犬の本能的欲求を充たすという大きなごほうびを伴っているのです。 そうした行動を容認すれば、当然に習慣化しますし、既得権益として、先に行ってからの禁止は 困難になることを承知しておくべきです。

無視しましょうと言って、わざわざ犬に背中を向けるトレーナーがいたり、タイムアウトといって、部屋から出ていくことを推奨されたりする場合もあるようです。 しかも、無視を解除する状況の判定について、そのおおよその目安となる時間について、 および解除後の処遇についてが、全くと言っていいほど述べられていません。

そもそも、無視が効果のある場合というのは、一途なまでに犬が飼い主に依存している場合や、 問題行動の目的が飼い主の関心を引くことにある場合なのであって、 犬から見て、あなたが「どうでもいい人」であったなら、
無視されたところで犬には何の影響も及びません。 問題行動でお困りになる飼い主の方の多くは、犬にしてみれば家政婦さんか召使いのような存在であることを 鑑みれば、効果のあるケースは少ないと言えるでしょう。

それに対して、無反応という対応は、効果のある場合が非常に多くあります。
これは、無意識に行っている飼い主の対応が、犬のある行動を問題行動へと増長させてしまっている場合です。
飼い主は叱っているつもりでも、犬にとっては、飼い主が来てくれることが嬉しくてますます吠えるようになった場合などです。
動物行動心理学でいう「消去」ができるのは、このような「強化された後天的獲得行動」、
すなわち飼い主が日常生活において悪化させた学習行動によるものについてだけです。
犬の生得的行動すなわち本能に起因する行動や無意識に行なう行動は、
その行動自体に褒賞が内在していて自己を強化しているため、無反応などによって消去することはできません。
たとえば、好奇心による行動は、行動自体に好奇心が満たされるというご褒美が内在しています。

無視というのは、所属欲求を脅かす社会的な罰です。体罰と違って、飼い主にすれば罰を与えたことの罪悪感が、非常に少ないこともあり推奨されているようですが、もし効果があるのであれば、それだけ犬にとっての精神的苦痛がある残酷な罰ということです。身体罰ですと、負傷や致死といった重篤な失敗が、即座に生じることがありますが、精神罰では、人間であれば 自殺や逆恨みなどがあっても、犬の場合には即座に表出する弊害というのがありませんので、加害意識も少なく使いやすいのかも知れません。
いけないとは言いませんが、個人的には、陰険な気がして好きになれません。



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