犬を訓練する方法だけを学ぶのであれば、それはそれほど難しいことではありません。 訓練の方法は、実に簡単です。犬の行動に応じて賞か、罰かを与える、ただそれだけのことです。 ただし、賞や罰にはいくつかの種類があり、それぞれの特性があります。 大別すれば、生存本能に働きかける一次的報酬(罰)と、相手との関係性に基づく二次的報酬(罰)です。 わかりやすく大雑把にいえば、一次的の代表例はおやつ(体罰)、二次的の代表例はほめる(叱る)です。
訓練の際、どういった賞や罰を使うことができるかどうかは、その人が、何をどれだけ学んできたかによります。 まず罰は、薬と同じで効果がある半面、弊害や副作用も多く、適切に使うには相当の勉強と経験が必要です。 また、相手との関係性によって成り立つ賞罰を用いるためには、犬と信頼関係を作らなければなりません。 ところが、犬と信頼関係を作る方法を学ぶことは、訓練方法を学ぶことほど容易ではありません。
訓練士の技能の半分は、性格を見抜いて、いかに短期間で犬の信頼を得られるのかという能力であると言えます。 訓練士は自らが犬に教えますので、犬との信頼関係を築くことは不可欠なことですので、それを会得するために、 それこそ犬たちと寝食を共にして、たくさんの犬に教わりながら何年にもわたって学ぶのです。
しかし学校やセミナーに通ってドッグトレーニングを学ぶ場合には、そうしたことはできませんから、当然に、 一次的報酬を用いた訓練方法を、「最新の犬に優しい科学的トレーニング法」として習うことになるのです。 そもそもドッグトレーナーは、犬に教えるのではなく人に教えるのですから、犬との信頼関係は必要ありません。
たしかに、どんな犬とでも、ある程度の短期間で信頼関係を築くことができるようになるのは難しいことですが、 飼い主なら一緒に生活している自分の愛犬とだけ信頼関係を築けばいいのですから、それほど難しくありません。 せっかく、飼い主なら教えてもらいさえすれば、愛犬と信頼関係を結ぶことができる状況にあるのです。
しかし、犬との信頼関係を結ぶ方法を教わっていないトレーナーには、それを教えることができません。 トレーナーは自分が教わった「信頼関係を排除した科学的トレーニング方法」を飼い主にも教えるのです。 なぜなら、現在ではトレーナーの養成の多くが、ビジネスとして行なわれているからです。
|