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犬をかう前に

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良い犬とは?
 
「良い犬」というのは、目的によって全く異なります。
「頭の良い犬」「性格の良い犬」「訓練性能の良い犬」「行儀の良い犬」 「体型の良い犬」「血統の良い犬」
「愛想の良い犬」「顔立ちの良い犬」 「丈夫な犬」等など挙げればきりがありません。
そして「頭の良い」という一点に限って言っても、何を捉えて評価をするのかという点で、また人それぞれです。
理解力の良さや、記憶力の良さなどを捉えて頭がよいと評価するのであればともかく、帰巣本能や、あるいは、
動物としての本能に起因する疑似人的行動を捉えて、頭が良いという評価をすることさえも、ままあるのです。

先程述べた、シェルティーに限らず、その犬種の作られた目的や環境に沿って犬を飼う人にとっての「良い」が、
一般の人が、この都市環境の中で、家庭犬として飼う上では、大変に飼いにくい犬であることは多くあります。
使役犬として高い評価を得ているシェパードやラブラドルリトリバーも、訓練士から見て非常に優れた訓練系統の
犬が、家庭犬としては、手に負えないといったケースも多いのです。

最近、一部の人には知られるようになりましたが、介助犬といって、障害者の介助をする犬がいます。
実は、そうした犬が作り出される前、猿を使って訓練に取り組んだ機関がありました。
おそらく知能指数からいえば、犬よりも遥かに高いでしょうし、骨格構成からも人間の必要とする行動を
無理無く行なえるはずでした。
しかし結果は実用に至らず、その訓練成果を公開して見せるまで、つまりは芸として見せるまでに終わりました。
人畜共通伝染病の問題点を除いても、猿を使った訓練が成功しえなかった最大の原因は、
樹上生活者である猿には排泄訓練(トイレコントロール)が困難だったことと、家畜ではない猿には、気性面の問題があったのです。
ところが、犬は今、立派にその役をこなしています。
知能指数の高さや、運動機能の優秀さだけでは、良い結果をもたらすとはいえないのです。

同じ事が、犬同士でもいえます。
以前大ヒットした映画「ルーツ」で知られるようになりましたが、ブラッド・ハウンドという脱走した奴隷を
追跡させるために使われていた犬がいます。
この犬種は、全犬種の中で、最も嗅覚の優れた犬だといわれています。
しかし現在、全世界的に見て、嗅覚作業を必要とする警察犬として使用されているのはこの犬種ではありません。
なぜなら、いかに優れた嗅覚であっても、その嗅覚によって仕入れた情報を人間に伝達する手段、即ち服従性や、
一般訓練性能、作業欲や、持久力、集中力といった全ての面で優れていなければ、肝心の役には立たないのです。    
どんな犬種を選ぶか 犬には沢山の種類があります。
そのいずれもが、先人が目的をもって作り上げてきたものです。
当然、犬種によってそれぞれの目的にかなった特性をもっています。しかし、特定の目的に優れている事が、
日本の住環境を考えた社会において、家庭犬としては不適当な場合も多くあります。
まず多くの方が外見上の好き嫌いで判断されることでしょう。
この事自体は、決して悪い事ではありませんし、むしろ当然とも言うべきでしょう。
次に、その犬種の持つイメ−ジや、評判を併せて、考えられることでしょう。

知り合いの家の何々犬が、とても良い子だから、可愛いいから、そうした判断でお決めになる方も多いようです。
これは大変に大事な事の反面、大変危険なこともあります。
ほんの数頭の犬を見ただけで、その犬種全てが、そうであるとは、当然に言えないからです。

その犬種の相対的な特性や評価を知ろうとすれば、本を読んだり専門家の話を聞くことになりますが、
ここでも気をつけて頂くことがあります。専門家というのは、それぞれの立場でものを言います。
問題となるのは、主に二点。一点目は、あばたもえくぼだということ。
つまり、通常の人には欠点である項目さえもさして苦にならない、時には、それが楽しみや魅力にさえなっているということです。
誰もが自分の愛好する犬種を奨めるでしょう。
少なくとも本人は、その犬種を良いと思っているのですから。

そして、二点目は、商売だということです。販売業者の場合は、まず在庫の犬を奨めます。
なぜなら、犬という商品は、在庫として抱えれば、その間に餌も食べますし、管理の手が掛かります。
売れる前に病気になったり死んでしまったりする事もありますし、日増しに大きくなり売れにくくなるからです。
見た目の好き嫌いは、誰もがご自身の感性で決める事ができますが、肝心の性格や特性については、
わからないままにお飼いになる方が多いのです。この時、売り主に話を聞いても無意味なことは、先に述べた通りです。

大型犬の問題点として、言うまでもなく、大きい事です。
どんなにおとなしくても、いざという時にその力は非常に強いという事です。
そして、万一性格の悪い犬になってしまった時には、それこそ命懸けです。

小型犬の問題点としては性格のきつい犬が多い事、神経質な犬が多い事。
その原因として、小型の犬の場合には噛む癖のある犬であっても大事故にならないため、平気で繁殖に使われる事があるということです。

毛の長さに関して言えば、長毛犬は、毛の手入れが大変ですし、短毛犬は、抜毛の処理が大変です。
意外なほどよく抜けますし、カーペットに刺さるので、なかなか掃除しにくいのです。
また毛質によって特に絹毛の犬などは手入れがよければたいそう美しいものですが、ちょっと怠っただけですぐに毛がからんで毛玉になります。
見た目が悪いだけならともかく、毛玉を放置すると、悪臭の原因や皮膚病になったりします。

犬種の特性を知るためには、その犬種が作られた目的を考える事が一番だと思います。
しかし、本には良い事しか書いていないことが多いようです。
例えば、吠える問題に関して、相談を受ける事の多いビーグル犬も、
ある本によれば「草原の声楽家といわれるこの犬種は英国貴族のキツネ狩りに使われ、その優れた性能はうんぬん」と書かれています。
牧羊犬として優れた血統を選んで繁殖されたシェルティー犬であれば、
家庭の中で飼われたときに、ジョギングをする人や、自転車、バイクに吠えかかったり、
お客さんが帰ろうとした途端にその踵に噛みついて前を塞ぐなどのいわゆる問題行動を起こしたりすることは、想像に難くないのです。

また日本犬や、テリアに代表される獣猟犬は、まず、性格がきついものと考えた方が良いでしょう。
そもそも大人しい性格では、命懸けで立ち向かう野生動物に挑みかかる事などできないのですから、
当然に繁殖にも用いられることはありません。 一時、大流行となった、シベリアン・ハスキーという犬種が、
すぐに人気が下火になりましたが、私はハスキーが元来、頭の悪い犬種や性格の悪い犬種だとは考えていません。
実際、北極圏周辺の地において、この犬種は、使役犬として、有能な成果をあげています。
しかしそれは、ソリ犬として飼われ、ソリ犬として使われて、の話なのです。
極端な言い方をすれば、人なつこくて、飼い主の傍にいることが何より嬉しいといった犬であれば、
ソリは、いっこうに前に進まないのです。
当然に、繁殖する上では、ソリ犬として不要な、人間に対する服従性や、依存性は排除されてきました。
そうした犬種を家庭犬として、さらには飼い主の言うことをきかせようとするから、性格が悪くなるのです。


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