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社会性を身に付けさせること(社会馴致訓練) | |
生後30日から90日の間は、犬の社会化にとって、最も大切な時期です。 本来からいえば、この時期に多くの環境に接する事が、犬の将来のために不可欠なのです。 しかしながら、丁度ワクチンの免疫を得る時期と重なってしまいます。 このため、ほとんどの方が、繁殖元や販売元、獣医師の指示に従って、外界との接触を絶ってしまうのです。 私も人様に対して、敢えて表に出す事を指示はしませんが、「私の犬は、病気で死亡するリスクよりも社会馴致ができないリスクの方が大きいと考えて、状況や場所を考えながら、積極的に連れ出す。」という旨をお話しし、あとは各人の判断に任せています。 しかし、何れにせよ、なるべく早い時期に、良い人、良い犬に多く会わせる事が、不要な警戒心を持たない、 社会性のある犬に育てる上で重要です。 最近では、子犬の頃の社会馴致の重要性も説かれるようになって、そうした機会の場も開催されています。 しかしながら、良い人、良い犬との出会いばかりで、その犬の嫌がることを何もしないままに馴致訓練を行なったつもりになって育てた結果が、通常のトリミングさえも嫌がる犬や、注射を打とうとすると噛みついてくる犬に育て上げてしまうこともあります。 不快刺激に対して、適切な反応ができるようになるためには、不快刺激を遠ざけてばかりいてはならないのです。と言っても、 強すぎる不快刺激が犬に好ましいはずなどありません。 では馴化の過程で、どういった種類の不快刺激を、 またどの程度の強さの不快刺激に晒すべきなのか、そしてその時の犬の反応にどう対処すればよいのかは、 個々の犬によって全くに違いますので多くの経験を必要としますし、その技能の習得は困難なものです。 それゆえに技能を持たないトレーナーは、「そんなことをしたら、いっそう怖がるようになりますよ」とか、 「嫌がるようならやめましょう」とか、「かわいそうなことをしてはいけません」という言葉を使って、 そうしたことを避けて済ませようとするのです。嫌がった時の対応こそが重要なのに、です。 またこの頃もしくはそれ以前から、極力小さなクレートに犬を入れて、自動車に乗せる習慣をつければ、 まず車酔いで困ることはありません。 ここで少し、馴化と鋭敏化について話をしておきましょう。 社会馴致について言うならば、たんに刺激に晒しさえすればいいというものではありません。 わかりやすく、刺激を数値化して述べるのであれば、ある数値までの刺激においては「馴化」がなされ、 それを超える数値であれば逆に「鋭敏化」がなされてしまいます。 強すぎる刺激は逆に恐怖感を植えつける結果にもなりかねません。 つまり、何でもかんでも表に連れ出せば良いといったものではないのです。 肝心な「ある数値」というのは、刺激の種類によって、また犬の感受性その他の稟性によって異なります。 怖いものをいつも遠ざけていたのでは、いつまでたっても克服することはできません。 そしてこの際に重要なのは、人の関与のしかたです。 例えば、何かを怖がって踏み留まった時に、後ろから軽く背中を押してあげる事により踏み出すことができ、その結果、何ら怖がる必要のなかった事を知ることもあれば、 逆に、転げ落ちて一層に怖がるようになることもあります。 飼い主の励ましが、かえって犬の不安を煽る結果になったり、あるいは何かを怖がって踏み留まったときに、 いつも中止することによって、漠然とした恐怖が、確信ある恐怖へと変わってしまったりということもあります。 また、飼い主が毅然とした態度でいる事が、犬に安心感を与える上で不可欠なケースもあれば、 飼い主は、犬に寄り添ってなだめてあげなければいけない場合もあります。 子犬の性格にあわせて、良好な結果を導くことができるような状況作りや、結果に対してのフォローができるか どうかによって、同じ方法が、毒にもなれば、薬にもなるのです。 また、一般の方が考える以上に、先天的な気質の違いがあります。 知識ばかりあって、その実、犬をよく知らない人は、社会性の欠如した犬を見るとすぐに、 社会化の欠如と言い出す始末ですが、実際には遺伝的要素によるものであることが多くあります。 持って生まれた気質はどうにもなりませんが、その中での欠点を多少なり、少なくとも、通常の生活に支障をもたらさせない程度に留めるためには、この時期を逃してはなりません。 ご自分の犬が、極端に何かを怖がるようであったり、明らかに攻撃的であったりする場合には、なるべく早めに、専門家に相談されるほうが良いでしょう。 |
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