記憶を例に言えば、宣言記憶と手続き記憶に分類されますが、水泳やピアノ演奏などのように体で覚える手続き記憶は忘れにくいと言われます。
意味がわかるほどに覚えやすい半面、小学生の頃に意味もわからないままに全文暗記をさせられたものは、未だに丸覚えしていたりもします。
犬の訓練においても、反復練習によって体に覚えさせたり、長期にわたって習慣づけさせたりした行動は犬も非常に忘れないものです。 また一般に、強い感情と結びついて記憶された事柄は永く記憶されるようです。
脳は外部からの情報に対して利益・不利益の価値判断を行い、その結果を判定し行動を選択します。
これにより動物は、身体内外に発生する様々な環境の変化に対応し、与えられた状況に応じた適切な行動や反応を選択しています。
本能行動の反応規準は生涯に渡って変更することができません。 ただ、それですと環境に適応できませんので、本能行動は最低限必要なものだけになっています。 「心の役割」とは、それは「学習結果を反映して行動を選択する」ことです。 情動行動そのものは生得的なものですが、その判定規準は生後体験によって後天的に獲得されます。 大脳辺縁系ではこの学習結果に基づき利益・不利益の判定を下し、情動反応を発生させます。
心は、環境からの入力に対して発生し、「食べたい」ものに接近行動を選択させ、「怖い」という判定に従って回避行動や攻撃行動を選択させることです。
心では、学習結果を反映して行動を選択します。
理性行動は、本能や情動に捉われずに過去の学習体験を基に未来の結果を予測するという、つまり計画行動です。
道徳的という意味合いはありません。 思考力とは、それまでに学習したものを基に未来を予測する能力です。 「情動」と「理性」は共に学習行動でありますが、このふたつの違いは、それが無意識行動であるか意識的行動であるかということです。
「本能」「情動」は、その場の判定に基づき直ちに選択される無意識な行動、 「理性」は、学習体験を基に未来の結果を予測する、自覚された意識的行動です。 但し、可能なのは未来を予測するまでで、利益・不利益の判定を下す機能は大脳皮質にはありませんので、 決定は大脳辺縁系の情動反応によって下されます。 つまり、大脳皮質が素晴らしい未来を予想しても、心が動かなければ、すなわち大脳辺縁系の情動反応が発生しない限り、それは実行されません。 このように行動選択の機能は、三系統が、並列に分離して構成されています。
このため一つの情報に対し、複数の異なる判定が下されることがあります。 本能行動と情動行動は共に「現在の利益」に従う無意識行動でありますから、ここでは判定の対立は起こりませんし、欲求が自覚される必要もありません。
理性行動では、大脳皮質が未来の結果という別の利益を予測するために、「現在の利益」と「未来の利益」を比較する必要があります。
それゆえ必然的に複数の欲求が自覚され、苦悩が生じるのです。
私たちは、自己の欲求や意思と他者のそれらとが葛藤する場合、内面化した行動規準に照らして、自分の行動を制御しています。
自己制御機能の獲得過程は、行動規準が獲得される過程と、その行動規準に合わせて自らの行動を統制する過程との二つに分けて考えられます。
行動基準が獲得されるまでの時期の環境が、いかに大切であるかを述べましょう。
産まれた時からこの行動基準が獲得されるまでの期間をオシッコやウンチにまみれて育った子犬には、当然にオシッコやウンチを踏まないという行動の基準は身に付いていません。
パピーミルとよばれる大量生産をするブリーダーで増殖された子犬にトイレトレーニングが難しい犬が多いのもこうした理由によるものであると感じています。
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