280支配と関係
支配と関係

284支配関係の判定
 支配関係の判定
そもそもが、支配と言うと、とかく支配者による一方的な関係と思われがちです。
利益あるいは行動が対立した時に闘争によって決着をつけ、その後もその決着に基づき行動が固定されたとき、
地位を獲得したとみなされます。すなわち勝者は支配的地位を得たとされるのです。
いわゆるアルファーですが、ここで問題となるのは、支配は支配者によってなされたのかどうかです。

かのマルクスは、「支配するから王なのではなく、周囲が従うから王なのである」と述べています。
それによれば、「この人が王であるのは、ただ、他の人びとが彼に対して臣下として振る舞うからでしかない。
ところが彼らは反対に、彼が王だから自分たちは臣下なのだと思うのである。」ということです。
つまり、支配とは相互作用なのです。 支配が先か服従が先か、ニワトリと卵のような話でもあります。

犬には当然のことながら個体差があります。
能力の劣る者が、優れた能力を持つ者に追従することは生存本能に則った行動であると言えます。
危険が迫った時に、Aが川を渡って逃げたとしましょう。
それを見たBも、Aに続いて川を渡ったことにより無事に逃げきることができました。
それ以降、Bは、Aの行動に従って行動することを選択するようになるのです。
Aは、Bの行動と無関係に、全ての行動を自由に行ないます。
そしてBはAの行動に追従し、自らの行動がAと対立する時には、Aと闘争することを避けるべく回避します。
いわば、AもBも自ら選択したこの状態を、支配関係にあるとみなすかどうかという話なのです。

Aが戦って相手を退散させれば、A にくっついているBは、何もしないで安全を得ることができます。
食糧にしても、おこぼれで我慢すれば、自ら獲物を得る必要も無くなります。
Aはお腹がすく度に獲物を捕えなければなりません。
そして危険が迫る度にAは、逃げるべきか隠れるべきか戦うべきかを自分で判断しなければなりません。
そう考えれば、AとB、どちらがいいか、ある意味、微妙な選択となるかもしれません。
さて、飼い主と愛犬、どちらがAで、どちらがBになるのが適切だと考えますか?

A君とB君が、同室に泊まることになりました。
ところがベッドが一つしかなく、殴り合いの喧嘩の末に勝ったA君がベッドに、B君は床に寝ました。
その後も二人が同室になった時は、以前の喧嘩で負けたB君がいつも床に寝るようになったと考えてください。
ところで二回目以降、喧嘩にならなかったのはどうしてでしょうか。
それは、B君が、再び喧嘩して負けることよりも床に寝ることを選択したからです。
対立そのものを避けることにより闘争による負傷などのリスクを避けたのです。
こうした結果になりましたが、A君が求めたのは、あくまでも「ベッド」であって「支配」ではありません。
この場合、生物学分野である動物学の学者による観察研究においては、こうした状況を支配行為と呼ぶのですが、
心理学分野である行動分析学の学者による実験研究では、これは相手を支配するための行動ではないと結論付けるといった話です。



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