罰とは、社会一般では懲罰、すなわち悪いことをしたことに対する制裁をいいます。 それに加えて一般的なしつけにおいては、強制の手段として、すなわち、しないことに対してさせるためや、 しようとしていることに対して、それを止めさせるために罰が使われます。
また、犬の訓練では、自発的な行動に対し、嫌悪する結果をもたらすように、結果を操作する場合があります。 ここではわかりやすく、それぞれを「制裁の罰」「促進の罰」「制止の罰」「人為的天罰」と呼びましょう。
それでは、それぞれの罰を、犬のしつけにおける場合で考えていきましょう。
[制裁の罰] 行動の是非を判定して与えられる、懲らしめるための罰です。 人間の場合ですと、主に反省と再犯防止を目的とするものです。
この罰は、もっとも一般に行なわれているようですが、何をしたから罰を受けたのかという、
きちんとした因果関係の理解がなされなければ意味をなしませんので、犬に対しては、ほとんど無意味だと考えます。 さらに言うならば、完了した行為に対する罰は、ほめる行為につながりませんので、教育的指導もできません。 ただ、犬に恐怖感を与えるだけのものになります。
[促進の罰] 行動の契機および行動の過程で使用されます。 つまり、指示をしてから行動完了までの間です。
行動の契機に使われる罰は、意志に働きかける強制です。言葉悪く言えば脅しです。 観点あるいは解釈によっては、しないことに対する制裁の罰とも考えられます。 この罰の使用は、相手に指示に対する理解と遂行能力があることが前提です。 行動を完遂した時にほめることができますので、完了した行為に対する「制裁の罰」のような害は防げます。 指示語と取るべき行動とが結びつかなければ、罰を繰り返さなければならなくなりますので注意が必要です。
行動の過程で使われる罰は、行動に働きかける強制です。 すなわち遂行を強制するもので、言葉を悪く表現すれば無理強いです。 いわば強制連行のようなもので、強制的誘導ともいえます。 負の強化を利用した強制訓練法であり、不快を逃れるための行動が、その指示が求めている行動であるように 行なう必要がありますので、一般の方が行なうには難しい要素が多くあります。 罰は怖いから、不快だからこそ、それを避けようとするのです。
「促進の罰」の目的は、罰を受けさせることではなく、罰を受けずに済むように、相手が行動を変化させることにあるのです。
罰を与える側が、そのことをすら心得ていないから、罰を避けようとする際に好ましい方向に行動を導いてやれないのです。
[制止の罰] 好ましくない行動を起こそうとした瞬間、あるいはその最中に与えます。 安全管理上を含めて非常に重要なことだと考えます。 私自身は、最小限の罰で最大の効果を生むために、止まれのマテをきちんと教えたのちに、 トラップを仕掛けた状況で、ただ一度だけの強い罰を与えるようにしています。
[人為的天罰] 行動の結果として与えます。嫌なことが起きる体験です。 行動の結果を判定してではありません。 叱るという指導的行為ではありませんし、怒るといった感情も一切不要です。 犬がその因果関係を理解するまでの間は、毎回、同じ罰を与える必要があります。
ただしタイミングさえ合えば因果関係の結びつけは容易なので、行動によっては、即効的な効果が得られますし、
十分な強さがあれば「長期的効果」も期待できます。
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