海外のニュース番組を見て初めて介助犬を知ったのは1990年頃だったと思います。 感動よりも不安を感じたことだけを覚えています。何年か後、日本で初めての介助犬が来た 時に、使用者の元を訪れ、色々と見て、お話を伺わせて頂きました。 その後、アメリカの介助犬訓練施設に見学にも行きましたが、今一つ、自分で手掛けることへの ふんぎりがつかずにいました。
もちろん当初より、介助犬の有益性は、自分なりに大いに認めていました。
常に世話をしてもらう立場だった人が、犬と暮らし、自分が世話をする立場に立つことによる 精神的な自己確立。訓練を通じて、犬と築いていく精神的な絆。 犬の世話をすることによるリハビリ効果や犬を連れることにより広がる社会の人々との接点。
それらは、何ものにも換え難い程のものです。
しかし、それだけでは、障害者が飼育するただの愛犬です。
職業柄、まず初めに浮かんだ問題点は、犬の訓練に関する事柄です。
訓練することによって、どういった事まで犬はできるようになるだろうか、また逆に、どの程度 まで訓練をすれば、障害者に安心して扱ってもらえるのであろうかという事です。
この点に関しては、犬を知っている人間ほど大きく不安を持つはずです。
犬の普通の行動の内、認めて良いものと、制約をしなければならない事も大きな問題です。 例えば、喜んで部屋の中を走り回ったり、尾をいっぱいに振っただけでも、家具を倒したり、 物をまき散らしたりと言った、思い掛けないよけいな仕事を作り出しかねないのです。 雨に濡れた時にブルブルッと身体をふるう犬として当たり前の行動も、改札口や、お店に 入った途端にしてしまったら、それは周囲の方にとっては不快なものになってしまいます。
しかし、最大の問題点は、自分の未知の分野に関することです。
なんといっても、私には、障がい者の事が、全くわかっていないのです。医療的なことや日常
生活の事、そして社会生活の事。
そもそも福祉とは何か介護とは何かすら勉強したこともありませんでした。
介助犬が使役犬である以上、犬を訓練して作り上げる事はただ単にスタート地点に立つことに すぎないのです。そこから始まる、使用者となる障害者の選定、医療情報の収集や、現況の 介助の状況把握とその理解、指導方法、およびアフターケアーに至るまでに必要なチーム 体制をどのように作り上げるのか。
さらに将来の供給体制の確保などをどのように行なうべきなのか。
それらの全てを整えないままに、犬の訓練だけができあがったからといってそのまま世の中に
出してしまってはいけないのではないだろうか。
その他に、これから述べる様々な疑問が湧いていました。
2001年 記
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