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相談編

194相談=噛みついて困る犬
相談=噛みついて困る犬
現在、二才一ケ月の雄の柴犬を飼っています。
一才位までは、よく人にもなつき、特に困ったことはありませんでした。(人が家の前を通る度によく吠えますが)
ただ家の前が公道で、人や車もよく通り、通学路にもなっており、絶えず、故意に空き缶を投げられたり、石を投げたり、場所柄、犬にとっては落ち着かないのも無理はありません。空き缶が投げつけられれば、面白がって追いかけたり、石が投げられれば、くわえてきて尻尾を振って渡したり。
気が付く度に、相手の方に注意したり、貼紙をしたりしましたが効果はなく、犬もよく吠えますので、その都度、しかったり、軽く叩いたりしてまいりましたが、その場その場では、尻尾を丸めて犬小屋に逃げたり、シュンとした様子を見せるのですが、いつも その時だけで同じことの繰り返しです。
そんなことが何度も続き、缶や石が当たったりして、だんだん怖くなったのでしょうか?
一才を過ぎた頃から、人が通るだけで、歯をむき出しにして吠えるようになり、またちょっと鼻先に、何かさわると、噛みつくようになりました。散歩をしても、はずみで犬の鼻先に女性の方のスカ−トが、フワッとかかって食いちぎり弁償したことも何度かあります。
見た目は人なつこく、人が近づくと、しっぽを振って、耳を下げて喜びますので、思わず手を出されるのですが、反射的に噛みつく事もしばしばです。 (中略)最近では、特に、人に対して、ちょっとでも近付いてくるなら、噛みつきます。
怪我をさせてしまった事も何回かあり、その都度弁償させて頂き、誠意をもって謝りに伺いますので、大きな問題にはなっていません。 ペットショップで、口輪を買いましたが、イヤがって容易につけられません。
やっとつけても、口輪が気になって取りたがり、散歩になりません。これから先、十年位、この犬を見て行かなくてはなりませんが、あまり、こうした行為が続くと保健所行きも考えてしまいます。もちろん家族になついておりますので、できればそんなことをしたくないのですが、あまり多いと、立場的に、何とかしなければと思います。
 

こうした相談は、実に多いのですが、この方の場合は、大変によく経緯について把握されています。
これだけ分かっていながら犬をここまでにしてしまった事は、非常に残念です。

まず、一般論として、二点述べましょう。
第一点には、柴犬を始め、日本犬は、ある意味で大変難しい犬種であるということです。獣猟犬としての勇猛性を持ち、飼い主に非常に忠実という長所は、そのまま、自我が強く、飼い主以外にはなつきにくいという短所なのであって、番犬としては優れたそうした特性も社会性のある家庭犬にと考えた時には、他の犬種より早い時期に充分な馴致を要しますし、その犬の性格にあわせた、明確なリーダーシップをもって育てる事も重要なのです。

第二点目に、人間の子供というのは、大人には考えられないような残酷なことを平気で、あるいは面白がってする場合も多いという事を承知しておくべきでしょう。そうした事から、小学校の通学路に面したところに犬を飼うと、犬の性格が悪くなる事が多いのです。そうしたことだけではありませんが、できる限り、犬は室内でお飼いになる方が良いのです。

この文章だけでは判らない事もありますが、気の付いたままに述べてまいりましょう。最も気になる点は、この犬は、飼い主に対しては、唸ったり、噛みついたりという事はしないのだろうかと言う事です。
口輪を付けるときに嫌がるというのがどんな様子なのでしょうか。
もし、飼い主に対しても、嫌なことをされれば、唸ったり噛みついたりするようであれば、まず、飼い主がリーダーシップをとること、即ち、散歩をはじめとする、毎日の犬との生活において、犬の側が飼い主にあわせて行動するといった訓練から始めなければいけません。以前にも述べていますが、叱ったり、怒ったりする事が、リーダーシップではありません。特に、こうした問題を抱えた犬に対しては、その事を胆に命じておいてください。

「見た目は人なつこく、人が近づくとシッポをふって、耳をさげて喜びますので、」という一文が気になります。通りすがりの第三者が、そう思う分には、仕方がないのですが、少なくとも、飼い主の方は、犬のそうした表現が、必ずしも喜んでいるのではなく、実は、怖がっているのだと知っておいて下さい。
そしてこの方の最大の、失敗は、他人が怖くて吠えている犬を叱って、更に飼い主までをも怖がらせてしまっていることです。
吠えている原因が、「怖い事」によるものなのですから、「怖くない事」を教えてあげなければいけなかったのです。また、シュンとしているのは、何も、叱られて反省しているのではありませんから、すぐに同じ事を繰り返すのは当り前のことです。

同じに、噛みつくといっても、攻撃で噛むもの、防衛として噛むもの、遊戯で噛むもの、疑似狩猟で噛むものなどがあり、各々に対応は異なります。この犬の場合は、恐怖体験に基づく、自己防衛による噛咬癖と思われます。
同じ恐怖体験であっても、この犬の様に、噛咬という問題点として現われる場合もあれば、硬直・失禁、咆哮・威嚇、逃走といった具合に、その時の状況や、その犬の性格、また、犬と飼い主との関係によっても違ってきます。 防御噛咬といいますが、自分の身を守るために、反射的に噛む事は、直すのに非常に時間を要しますし、完全に直ると迄はいかない面もあります。しかし、かなりに症状を改善させることはできます。この先で述べる方法と、その他の方法つまり、口輪の使用や、常に紐を短くし飼い主の横について歩く練習等とを併せて行なって頂き、かつ、飼い主が充分に気を配りさえすれば、少なくとも事故にならないはずです。

そもそも、散歩の時に、紐を長く持ちすぎているのではないでしょうか。そして、犬が前を歩いて、その後ろを飼い主が付いて歩いているのではないのですか。きちんと、飼い主の横を付いて歩く事を教えれば、人ごみの雑踏の中を散歩させているのでない限り、相当のケースで、問題を防げるのではないかと思います。

今必要な事は、顔の前に出てくる物や、人の手、ひらひらした物、そうした全てが、「怖いものではない事」を犬に理解させる事です。そのためには、叱る、怒る、脅す、追い詰める、逃げる、逃げ込ませる、等といった、理解の妨げとなる行為は全て避けて下さい。方法としては、とにかく、顔の前でものが動くことに、徐々に慣らしていくことです。
始めは、犬を、逃げ回る事ができない位に短く繋ぎます。犬に、「逃げる」という選択肢を与えないことは非常に重要です。そして飼い主の方は、ある程度の距離をおいて、ひたすら根気良く、犬に近付いては、また離れるといった行動を繰り返します。こうすることにより、犬に、自分が近付いても何事も起きないということを教えてあげます。
近寄る度に、始めは喜んだり、怖がったりといった、何がしかの反応を見せるでしょう。犬が、反応を始める距離まで近付いたら黙って立ち止まり、二、三秒したらまた離れます。一切相手にせず、犬の鼻先近くに近寄っても反応しなくなる迄、黙々と繰り返します。

次の段階では、太い鉄パイプに、ビターアップル(無害ですが、苦味がある)を染み込ませた布を巻いた物を犬の顔の高さに下向きに持って、同じ事を繰り返します。それにも反応しなくなったら、犬の口がぎりぎり届く程度の距離に立ち留まり、その鉄パイプを、犬の顔の前で何度も動かします。 もし噛んできたら、一切の動きを止め、何の相手も、反応もせずに犬が放すのを待ちます。噛んだ時に、歯が当たり不快感があるように鉄パイプを使うのであって、間違えても犬を殴るためではありません。
この段階をもできるようになったら、今度は、その鉄パイプを犬の身体に軽く触れさせ撫でるようにします。
次に、身近な方に頼んで、同じく第一段階からを行ないます。そして、さらに次には、犬を繋いだ状態ではなく、飼い主が紐を短く持った状態で、同じく第一段階からを行ないます。犬が噛もうとした時に、手伝いの人が、反射的に手を引いてしまったりしては何にもなりませんので、革手袋をしたり、ズボンをはいて、すねの部分には、中に新聞紙を巻いておくなどの対策を予め講じておいて、始めのうちは、極力、機械的に犬と対面して貰ってください。犬が反応するように、わざと大げさに遊ぶ振りをして近づくなどというのは、最終段階での話です。 とにかく焦らずに、犬を極限状態にまで追い込まない事を最優先に考えて、徐々に行なう事が何より大切です。  
   
参照
127
訓育編=噛みついてくる
170 問題行動
187
矯正訓練
183 問題行動=甘噛み

187 問題行動=本気咬み
193
相談編=飼い主に唸る犬
194 相談編=噛みついて困る犬


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