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訓練教本   ドッグトレーナー養成塾


    大型犬と家の中で一緒に暮らすことを前提とした訓練方法です。

    小型犬であれば困らないようなことでも、問題になることも多いです。

    周囲の方のためにも、愛犬のためにもしっかりした訓練を学びましょう。





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基本服従訓練

 科目の訓練
 家庭犬としてお飼いになるうえで、是非とも、教えておいて頂きたい科目が 五つあります。
 「停座」= 座る事
 「脚側行進」= 一緒に歩く事
 「待機」= 待つ事
 「伏臥」= 伏せる事
 「招呼」= 呼ばれて来る事


 家庭犬としてお飼いになるうえで、是非とも、教えておいて頂きたい科目が 五つあります。
「停座」= 座る事 「脚側行進」= 一緒に歩く事 「待機」= 待つ事 「伏臥」= 伏せる事 「招呼」= 呼ばれて来る事です。 言うまでもなく、どれをとっても、何も教えなくても、それぞれ犬は毎日自分の意思で、それらの行為を繰り返し行なっているのです。つまりは科目訓練というのは、普段犬が自然に行なうこうした行動を、人間の指示によって行なわせるというだけの事なのです。

言うまでもなく、座る事にしても、伏せる事、じっとする事、歩く事、どれをとっても、何も教えなくても、
それぞれ犬は毎日自分の意思で、それらの行為を繰り返し行なっているのです。
早い話、座らない犬や伏せない犬というのはいないのです。
つまりは基本訓練というのは、普段犬が自然に行なうこうした行動を、人間の指示によって行なわせるというだけの事なのです。

犬に、いうことをきかせるためには、ただ強引に服従させるのではなく、
その前に、犬に何をさせたいのかを伝えて理解させなければなりません。
まず科目を教え、その後に毎日の犬との生活の中に応用して取り込んでいく事によって、飼い主と愛犬の間に、より良い関係を築いて頂きたいと思います。科目を教えることによって、犬にそれをさせる。
きちんとできたら誉めてあげる。こんなに簡単なことで、本当に素敵な関係ができていくのです。

小さな子供さんが、お母さんのお手伝いを嬉しそうにするのと同じです。
大好きなお母さんが微笑んでくれる事が、無上の喜びなのです。
残念な事に、犬の場合は、体型上の違いもあって、手伝いができないだけなのですから、
あなたが、犬にできる事柄を求めてあげればよいのです。

第一段階は「する様にしむける」段階です。
教えようとする科目の行動を、犬がする様にしむけます。
そして、偶然に、または必然に、犬がその行動をおこした時に充分に誉めてやります。
分かりやすく言えば、犬に号令の言葉を理解させる段階です。 停座を例にとって説明していきましょう。
犬は人間の言葉を知らないのですから、いくら「スワレ」「スワレ」と声をかけたところで、
人間が何をいっているのか、何を望んでいるのか、全くわかるはずもありません。
まず初めにする事は、「ス・ワ・レ」という号令と、犬が、前足を伸ばし後足を折り曲げた、
いわゆる「座った姿勢をとる事」とを結びつけて、意識付けさせる事です。
犬が座ろうとするのを見かけたら、「スワレ」「スワレ」と声をかけてやり、犬が座った時点で、
犬を十分に誉めてあげます。
当然、犬にしてみれば何を誉められているのか解りませんが、それで構いません。
次に、犬と遊んだり撫でてやったりしながら、なるべく犬の興味を引く様に、 自分の右手を、
犬の鼻先からスーッと上にあげていきます。
この時、「スワレ」「スワレ」と声をかけ続けてやる事は言うまでもありません。
犬が座るまで、ひたすら、犬の頭上で犬の気を引き続けて下さい。
その間、犬が跳び付いてきても一切無視して、犬が座るまで続けます。
そして犬が座ったなら、間髪を入れずに、思いきりほめてあげます。
この段階では、座っただけで上出来なのですから、ほめた途端に犬が立ち上がってしまおうが、そんな事はお構いなしです。こんな気の長い方法であっても繰り返していくうちに、次第に、五回か十回も声をかければ、犬が座る様になります。

第二段階は「する様にさせる」という段階です。 初めのうちは、犬の気が散らない場所を選んで、教えてあげましょう。声の合図(声符)と手の合図(視符)をして、犬にその行動を実行させて充分誉めてやります。
これは幾度も反復して練習しますが、この段階迄は、犬が、訓練を喜んでする様に短時間の練習を、回数多く行ない、決して叱らない様にします。
合図は、大きくはっきりとし、犬に、自分は何を要求されているのかを、理解できる様にわかりやすくする様に心がけます。そして犬が「学習」の 報酬に対し、自ら要求をもつ様に存分に喜ばせる事が肝要です。
つまり、犬に、また誉めてもらいたい、と思わせる様な誉め方ができるかどうかが ポイントです。
行動を実行させる際の、誘導や補助、すなわち、「罰」は、徐々に減らしていきます。
そして犬が、自ら進んで行動を起こしかけた時には、その行動が、正しいものか否であるのかを、
犬が理解できる様に声をかけてやります。
この段階の後半においては紐や手による誘導は、言葉や表情による誘導に変えていかなければなりません。
カラ−によるショックを使わなくても、誉めてもらうという報酬のためにであれば犬がする様になったなら、
犬がその科目を理解したと考えて良いでしょう。 

第三段階は「させる」という段階です。 報酬目当てにするのではなく、指示に従ってする事を教えます。
一度の号令で従わない時は即座に、させます。この段階迄来て、初めて、必要最小限の体罰を必要とします。
ショックを与える上での注意点としては、正しい方向性を定めてから行なう事です。
判りやすく言えば、そのショックから逃れる事ができる方向を一つに限定してしまうことでその一つとは、
当然、教えたい科目ということになります。
例えば「来い」という科目を教える時には、その場に立ち留まることはもちろん、飼い主の元に向かう方向以外に動くことは、一切、認めないことです。それ以外の方向に動いた時や動こうとしない時には、再度ショックを与えます。

第四段階は、これまでと環境を変えて、いつ、どこででもできる様にします。  
そして、声符や視符は次第に小さくしていきます。
犬の性格によっては、環境が違うと、思いもよらぬほどいう事をきかなくなるものです。
犬が何に気を取られているのか、また何を怖がっているのかをきちんと見極めて、時には強引に、
時には優しく不安を取り除くべく励ましてやりながらも、確実に命令に従う様に教えます。



 座れの教え方
命令用語(号令)としては、「オスワリ」「スワレ」「シット」などです。
この科目は、とっても一般的でほとんどの方が教えているのではないかと思いますが、
訓練を進めていく上でも大切な科目ですから、是非しっかり教えてほしいと思います。
最終的には、いかなる状況においても、命令に従って即座に座るようにします。


「また、誉めてもらいたい」という気持ちを犬に持たせる事が、初めの一歩です。
まず、犬が偶然に座った時に、「スワレ」「スワレ」と声をかけて充分に犬を愛撫してやります。
これを何度も繰り返すうち、次第に、犬が座りかける瞬間に、「スワレ」の号令をかける様にしていきます。
そして、犬が座ったら、今度は「ヨシ、ヨシ」といって誉めてやります。

効率よく教えるためには、犬が座るのを只ずっと待つのではなく、何らかの手段で、犬が 座る様に仕向ける工夫が必要です。右手の人差し指を立てて、犬の鼻先から上にあげます。
これは「座れ」の手の合図(視符)であると同時に、あなたが四つん這いになって上を向いてみればお分かりでしょうが、犬の視線を上に向ける事によって、犬が自然に座り易くするものです。
次の段階は「号令」と「座る事」と「誉めてもらえる事」を犬に関連づけて教えます。あまり犬の気が散らない状況を選んで、短時間の練習を回数多く行ないます。

大切な事は、充分に誉めてやりながら犬が喜んでやる様にさせる事です。この段階で、犬を叱って怖がらせてしまうと 、恐怖心ばかりが先立って、犬は何も覚えられません。犬に分かりやすいためにと同時に、犬の注意を自分に引きつけるためにも、号令は大きな声で、はっきりといいましょう。 そして声符と同時に、視符も併せて行います。まず、犬を自分の左側につけて、右手にリードを短く持ちます。この時紐が長いと、犬は自由に動き回ってしまい、あなたの指示に集中しなくなります。 「スワレ」の声符をかけて、右手の紐を上に引き揚げると同時に、左手で 犬の腰を押さえて犬を座らせ充分に誉めてやります。               

力配分でいえば、右手が7で、左手を3ぐらいが良いでしょう。 左手で、力ずくで座らせようとすると、かえって犬は嫌がりますので、左手は、犬が腰を左右に回さない様に、人差し指と親指を開いて、犬の腰骨の部分にあてがいます。そして押す時も、真下よりも心持ち前方に、極端な表現をすれば、両前足の間にお尻を巻き込むようなつもりで、素早く押え込みます。 これを何度も繰り返して教えるわけです。回数を重ねるにつれて、補助や誘導は徐々に少なくしていき、右手のリードは、瞬間的なショックを与えて引く様にします。そして犬が自ら座ろうとした時には、「ヨシヨシ」と軽く励ます様に声をかけて、その行動が正しいものである事を伝えます。この段階の後半においては紐や手による誘導は、徐々に減らすとともに言葉や、表情による誘導に変えていくことは前に述べたとおりです。

第三段階では、指示に従ってする事を教えます。これまでの練習とは環境を変えて行ないます。といっても急激に難しい状況にはしないで、順を追って難度を高めていく様にします。環境に慣らす事と、自分に注目させる事が大切です。 犬は「できる」段階にあるのですから、指示しても犬がしない時には、必ずさせるという意志を持って下さい。場合によっては、最小限の体罰も必要になりますが、この時は、犬が体罰を与えられた事を忘れてしまう程、良く誉めてあげる様にして下さい。 そして、この段階まで来たら、何度も声符を繰り返さないで下さい。一度の声符で、即座に座る事。これをしっかりと教え込みます。それと同時に、声符・視符は次第に小さくしていきます。もしも、きちんとした姿勢までも教えたいのであれば、横座り(片膝をくずす)をする犬の場合には、この頃から直す様に習慣付けます。



 伏せの教え方
 
 命令用語(号令)としては、「フセ」「ダウン」などです。
この科目は、一般的な割に、意外に教えるのに苦労される方が多い様です。
犬にとっては服従心を要求される姿勢である事も、教えにくい一因なのかもしれませんが、逆に言えば、その分しっかり教えておきたいものです。

訓練を進める上での、段階的なものは「座れ」の教え方と同じなので、割愛します。
右手を開いて犬の顔の上方から、鼻先をかすめて下に降ろすのが「伏せ」の視符です。最初の段階においては、犬を座らせた姿勢から、犬と対面して座り、両手で、犬の両前足を握って前方に引き寄せます。こうして犬を伏せた状態にさせてから充分に誉めてあげます。 この段階の練習を充分に行なっておくと、この先の段階で、余分な強制を必要としなくなります。初めのうちは犬が腰を崩したり、寝転んだりしてしまってもかまいません。
次第に、犬が抵抗なく伏せの姿勢を取る様になったら次の段階に入ります。
犬を自分の左側に座らせて、左手にリードをできるかぎり短く持ちます。そして「フセ」の声符をかけて、右手は視符を行ない、同時に左手の紐を、地面まで引き下ろします。犬が伏せる事を嫌がる様でしたら、紐を何回かに分けて、ショックを与える様に引いて下さい。 更に強情な犬に対しては、紐を右手で引く様にして、あなたの左脇に犬の肩口を抱え込み、自分の胸で犬の頭部を押え込みます。そして左手で、犬の両前足をつかんで前に引きます。込み入った表現をしましたが、要はあなたの全身を使ってでも、犬を押え込んで頂きたいのです。

この段階で必要なものは、テクニック等ではなく根気と強引さだと考えて下さい。
もちろん犬を伏せさせるには、他にも色々な方法があります。そのうち最も安易な方法といえば、左手で紐を下に引っぱると同時に、右手に持った餌を犬の鼻先から地面近くに覆い隠す様にして教える、 いわゆる餌で釣る方法ですし、又はやや不安定な高台に犬を乗せる事によって伏せをさせたり、あるいは突然に右手を大きく振りあげる事によって犬を伏せ込ませたりする方法もあります。
しかし初めにも述べた様にこの科目は、最も犬に服従心を要求する科目なだけに、できる限り先に述べたやり方で教えて頂きたいのです。ただし、犬の性格に依っては、かなり無理強いして教える事にもなりますので、犬が伏せた時には、座れを教えた時以上に、思いきりほめてあげる様にして下さい。 犬の力が強すぎてどうにも伏せさせることができない場合には、犬を左横に座らせた状態で紐を右手に軽く弛ませて持ち、「フセ」の声符と同時に右手を上にあげながら、紐の中央部分を左足で踏み押さえます。しばらく抵抗してもまず伏せるものです。 この方法はかなり強引なさせ方になりますので、犬の性格によっては、「天罰」の感覚を 用いたほうが良い事が多い様です。犬が伏せるまで声符だけはかけ続けますが、なるべく体は直立で、正面を向いたまま、犬の方は全く見ないで、そしらぬ素振りで機械的に紐を踏むのです。犬が伏せた後、充分誉める事は忘れないで下さい。 尚つけ加えておきますが、体で覆いかぶさったり紐を引いてショックを与えたり、紐を踏んで犬の首を引き下ろしたりと、かなり手荒な表現で述べましたこれらはあくまでも、犬を伏せさせるための誘導や強制であり、補助なのであって体罰ではありません。犬がやらないからと言って怒ってするのであってはなりません。
同じ強さの強制であっても、怒ってする強制と誘導としてする強制とでは、犬に与える結果は全く違うのです。 初級の訓練においては腰を崩す事は気にしないで良いでしょうが、横たわってしまう犬は、ある程度の誘導で犬が伏せる様になった頃から 直させる様にしましょう。犬を前に引きずる様な心積もりで紐を前に引く方法もありますが、「座れ」と「伏せ」を交互に、やや速いテンポで繰り返させる練習を行なえば自然に直ってしまうものです。腰を崩す犬についても同じ方法で直ります。 犬の訓練を始めてみたら、意外に面白くなって、さらに上のレベルまで訓練をしてみたいと思っている方は、「伏せ」(腰を崩さない)と、「休め」「ステイ」(腰を崩す—長時間待たせる時に使う)を区別して教えるのがよいでしょう。





 待ての教え方
 「マテ」の教え方
「止まれ」の意味の待てと、「留まれ」の意味の「待て」があります。
止まれのマテは、事故を未然に防止する上で非常に有用ですので、是非とも強制を使って教えたいものです。
留まれの「マテ」は、他の科目と違って、何もしない事を教えるため概念的であり、
犬にしてみれば、ややわかりにくい部分があります。

止まるという意味の「待て」から教えてみましょう。                     
声符は、「マテ」「トマレ」「ストップ」「ウェイト」などです。
読み進むにつれておわかり頂けると思いますが これは紐をたるませる習慣を身に付ける第一歩となります。
つまり、歩きながらこの練習を行なうことは、脚側行進の基本となりますし、後ずさりしながら連続して行なって頂けば、招呼の基礎となりますので、犬に初めて引き紐を付けた頃から教えるようにするのが良いでしょう。

犬が、飼い主の周りにまとわりついて離れない場合は、一つ先の段階から始めます。
こうした場合は、犬の性格が弱いか、飼い主との良いコミュニケーションがとれているかのどちらかですので、何れにしても強いショックは必要としません。

逆に、一目散に飛び出して行くタイプ、あるいは、そのように育ててしまった犬の場合は、初めの一回で、
充分な効果をあげられるように、あらかじめ、紐と心の準備をしっかりしておいてからとりかかって下さい。
こうした犬の場合は、まず、飼い主の方は、引き紐の末端だけをしっかりと持つ事を念頭において下さい。
紐の途中を持ってしまうと、犬が飛び出す勢いを利用して教えるこの方法の効果が無くなります。

右手で、紐の末端を持ち、とりあえずは、左手で、犬の首輪を持って犬を抑えておきます。
左手を離すと同時に、犬は、飛び出して行く訳ですから、素早く、左手は、右手に添えて紐の末端を持ちます。そして、犬が引き紐の長さ分離れる(紐が、ピンと張る寸前)その瞬間に、瞬発的に引き紐を引いて下さい。
紐で引き寄せるのではありません。あくまでも瞬間だけです。
この時に犬と綱引きをしてしまったのでは、犬は一層引くようになります。紐を引いた直後にはすぐに紐をたるませることが肝要です。その一瞬は、犬がキャインと声をあげる、あるいは、もんどり返る位で構いません。 最低でも、犬が止まって飼い主を見る程度の強さは不可欠です。   

逆に、強さが足りずに何度も何度も引かなければならないようですと、結果的には「教えている」のではなく、只「犬の首を鍛えている」事にしかなりません。
これだけの理由ではありませんが、犬を鎖で繋いで飼うことを私は賛成しません。繋がれて飼っている犬は、
相当に強く引かなければ、犬にはショックとして伝わりません。ところが、人間の心理とは面白いもので、
そうした飼い方をしている人に限って、犬が杭を抜かんばかりに跳び回っていても平気で、杭の代わりに自分が紐を持った時には、あまり強く引いては、かわいそうだと言い出すのです。

また、どうしてもタイミングが間に合わなくて上手にできない方は、今お使いの引き紐よりも
少し長めの引き紐に代えると一呼吸余裕を持つ事ができますが、あまり長すぎるものを使うと、
犬に加速がつく分、かえって大変になります。2メートル以内の方が良いでしょう。

さて、では次の段階に進みましょう。
「マテ」の声符と、首輪のショックを犬に結び付けて理解させます。行なうこと自体は、前段階と同じですが、必ず、紐を引く寸前に「マテ」の号令を与えてください。それまで程、強く引く必要はありません。
先程の最低程度、つまり、犬が止まって飼い主を見る程度(犬の性格、大きさ、月齢によって全然違います。)のショックを使うようにしながら、練習して下さい。
そして立ち止まって飼い主を見ている犬に、すぐさま駆け寄って誉めてあげる事も忘れないでください。
尚この練習中は、それ以外の細かい事は、一切気にする必要はありません。
犬が立とうが、座ろうが寝そべろうが、右にいても後ろにいても構いません。又、じゃれついて来ても、
ただ無視すればそれで結構です。
紐がたるんでさえいれば、つまり、飼い主から紐の長さ分以上離れなければそれでいいのです。
ここでは、飼い主にとっては、紐をたるませておく事そして、犬にとっては、行動の中心は飼い主であるという事を学べばいいのですから。

飼い主から離れない犬については、少し歩きながら行なってみて下さい。飼い主から気をそらせ、何かに興味をひかれた様子が見えたら、軽くショックを使います。


では次に、留まれの「待て」の教え方です。                    
声符は、「マテ」「ウェイト」「ステイ」などです。
教え始める時期は、「座れ」「伏せ」を教え終えた頃が良いでしょう。
この科目は他の科目と違って、「何もしない事」を教えるため、概念的で犬にしてみればわかりにくい部分があります。また何もしていない状態(動かないままでいる訳ですが)で、誉めたり、叱ったりしなければいけないのですから、教える側にもそれなりの、細やかな気配りが必要です。
まず、誉め方の注意点としては、犬をはしゃがせるような誉め方をしないこと、つまり、喜ばせるのではなく、犬に安心感を与えるような落ち着かせる誉め方を心掛けてください。
叱り方は、強い叱り方は逆効果だと心得てください。むしろ、淡々と黙ってやり直させる程度のほうが、
効果が上がります。
この科目では特に、失敗を直して教えるよりも、成功を積み重ねて教えるほうが良いでしょう。
初めは犬のすぐ近くにいて待たせますが、次第に犬との距離を広げ、
飼い主が隠れてしまっても待てるように教えたいのであればなおさら、成功の積み重ねは重要です。
また、犬が動いてしまう度に、犬の元に戻って叱っていると、犬は叱られる事ばかり気にして一層不安になり、また立ち上がるという悪循環を起こし、挙句に、飼い主が近寄ると逃げるようにさえなります。
同じ様な事が、誉める上でもあります。
少し離れて待たせられるようになると、犬の元に戻るとすぐに誉めてしまう方がいます。
これを繰り返していると、次第に犬は、飼い主が戻る気配を見せただけで、
駆け寄ってきてしまうようになります。こうならないためには、段階を踏まえながら、
誉めるタイミングを遅らせるなど、常に「犬の理解の仕方」というものを考えながら教えてあげてください。

一般的な教え方を述べましょう。まず、犬を自分の左横に伏せさせます。犬を伏せさせながらあなたも犬の脇にしゃがみます。左手に引き紐を短くもって、わずかにたるませます。この時、紐を長くしてしまいますと、
犬が動きそうになった時に、紐の長さ分犬が動いてからでないと犬を制御できない事になりますので、
なるだけナスカンの近くを持つようにして、カラーの余裕分だけをたるませるようにして下さい。
右手は視符を行ないます。手の平を広げ、犬の顔の高さから犬の鼻先に向けて近づけます。
「マテ」の号令を発すると同時に、カラーのショックを犬に伝えるべく、瞬間的に左手の引き紐を引っ張ります。 これは、一種のマジックで、犬に「右手の視符と、首へのショック」とを 如何に結びつけて印象付ける事ができるかが重要です。そのために大切な事は、犬に必ずあなたの右手を見させる事です。それには、右手を動かす前に、一度右手の指を鳴らすなどの工夫も良いでしょう。犬が、「首へのショックは、人間の左手の紐の操作によるものだ」と気がついてしまうと、その先、犬との距離をおいて待てを教える際に不都合が出てきます。伏せて、ある程度待てるようになったら、次は座れの姿勢で待たせることを教えて下さい。

多くの方の失敗の原因に、タイミングの悪さがあります。「待て」の号令を掛けるのが、ほんの一呼吸遅れるがために、犬は「立っては座り、又、立っては座る」事を覚えてしまうのです。座る事を教えているのではありません。座ったままでいる事を教えているのです。犬が動きそうになったなら、できる限り素早く、その動きを制して下さい。方法としては、犬は、顔の向いた方向に動こうとするのですから、鼻先を制するのが最も効果的です。強さと、手の動きの速度とを飼い主の方に理解して頂くために次のような表現を使っています。「犬の鼻の頭に蚊が止まっていると思って、その蚊を殺して下さい。」 最も大切なことなので繰り返し述べますが、犬が動いたら制するのではありません。犬が動きそうになったら制するのです。当然この時、まだ犬は動いていないわけです。犬が動いてもいないうちに叱るなんてかわいそうだという方がいますが、「イケナイ・マテ」と言って鼻先を叩くのは叱ってするわけではないのです。
あなたが自動車を運転中、一時停止の所で徐行だけしてそのまま前に出た途端に、電柱の陰に隠れていた警察官が出てきたと想定してみてください。取締のための交通法規ならいざ知らず、安全のための交通法規なら、違反するのを待ってて捕まえるのではなく、こちらが違反する前に「一時停止ですよ」と言ってくれればいいのにと思いませんか。
次第に犬ができるようになってくると、誰もが、まず距離を延ばしたがりそこで失敗をして犬に悪い癖を付けてしまいます。何度も言いますが、階段は、下から一段ずつ上るのが一番です。姿勢で言うならば、伏せた姿勢、座った姿勢、立った姿勢の順に、犬は不安定になってきます。飼い主の離れる向きとしては、右隣、犬の正面、犬の後ろの順に教えていきます。そして、闇雲に距離を延ばすことよりも、まずは、引き紐の距離で充分ですから、確実に待てることを先に教え込みます。 飼い主が犬の周りを回ったり、しゃがんだり跳びはねたり、またいで歩いたりといった様々な状況を作り、又、他の犬が遊んでいる中、人通りの中、踏切の前でといった様に環境を変えて、あるいは、犬舎の前、門・玄関の 出口前、公園の入り口などといった、犬が先を急ぎたがる場所や状況で行なうといった事の方が、よほど重要なのです。 次ぎに塀の角や自動車などを利用して、犬のすぐ近くで飼い主が隠れるなどして待たせる練習をします。それらが完全にできる様になった後に、長紐を利用しながら、距離を延ばしていくべきなのです。  
 



 脚側行進の教え方
 「アトエ」(飼い主と一緒に歩く事)の教え方
飼い主と一緒に歩く訓練を、訓練用語で「脚側行進」と言います。
命令用語は、「アトエ」「ツケ」「ヒ−ル」などです。

気を付けて頂きたい事は、犬が人間に合わせて歩く事です。
ややもすると、犬に合わせて歩く人が非常に多いのです。
他の科目においてもそうなのですが、ここで特に大切なことは、犬と飼い主のコミュニケーションなのです。
まず、何のために引き紐を付けて散歩にいくのかを考えて見て下さい。
引き紐を付ける理由です。法律で決まっているからと答えた人は、おおむね正解です。
引き紐は、あくまでも、犬の嫌いな第三者に不安を与えないため、それと、犬を万一の事故から守るために付けておくのです。 あなたが、恋人と手をつないで、街を歩く時の事を考えて見て下さい。
彼氏が、あるいは、彼女が逃げ出さないようにと、手をつないでいるのではないはずです。
犬だって家族の一員としてお飼いになっているなら同じ事です。
犬と飼い主を繋ぐものは、引き紐ではなくコミュニケーションであるべきなのです。
それなのに、ほとんどの方は、刑事が犯人を連行するときに使う手錠と同じ感覚で、
相手が逃げないために引き紐を使ってしばりつけているのです。
実際の使い方としては、むしろ小さなお子さんの手をひく時に近いかも知れません。
子供がまだ2~3歳の頃は、車道に飛び出したり、どこかへ行ってしまったりしないように、
ギュッと握って歩きますが、次第に、親の言う事がきけるようになるにつれて、つないでいる手は、
コミュニケーションの一つの型になっていきます。それでも時として、例えば、玩具屋さんの前を
通るときには、強く力をこめてその手を引かなければならない事もありましょう。
だからといって、 子供が幾つになっても、手をギューと握っていなければ街を歩けないなどという事は、
通常ではまずないことです。

脚側行進の訓練を見て、もっと自由にさせてあげないと可哀想だという意見があります。
ところかまわず、排便排尿をする。方々の臭いを嗅いで回り、異物を食べる。すれ違う見知らぬ人に鼻を寄せて行ったり、跳び付こうとしたり、吠えかかったりする。
そうした行為を容認する事が、自由の中味であるならば、あまりに次元が低いのではないでしょうか。
当然、自由の中には、飼い主と並んで歩くという選択肢も含まれて良い筈ですから、
犬が 自ら、喜んで飼い主に併せて歩くように育ててあげれば良いのです。
それなのに、自分たちの意志で、その犬を自分たちの家族に迎え入れたにも拘わらず、犬との良い関係を築く努力もせずに育ててしまうから、家族で一緒に歩くと言う当り前に自然な行動が、可愛そうだと思わせる結果になるのです。

初めは、あまり誘惑のない閑散とした広場等で行なうのが好ましいでしょう。
最終的には、どの様な環境のもとであっても、犬が人間の歩調に合わせて、常に人間の左真横(犬の前足と人間の足が並ぶ)について歩く様にするのですが、初めからきちんとしたヒール・ポジション(人間の左真横)をとらせる必要はありません。 まず、犬を人間の左側を歩かせる事と、リードを必ず軽くたるませる習慣を身につける事から始めます。 簡単に申しましたが、この「リードをたるませる」と言う事が、大変に難しい事なのです。これができれば、本質的には、この科目の完成と言っても良いでしょう。 引き紐は、カラーにショックを伝達するだけで良いのですが、ほとんどの方が、引き紐を張ったまま、犬を引き寄せようとしてしまいます。
グイッ−と引っ張るような感じになるのです。この結果犬との力勝負となり、一層意固地な犬に作り上げてしまうのです。犬には、足が付いているのですから、引きずらなくても、飼い主の元に来られるのです。
ガツッンというショックだけを与えて、犬に気が付かせさえすれば、あとは優しく呼んで、上手に誘い込んであげれば良いのです。誘導の上手下手こそが、大切なポイントなのです。

教え始めの犬は当然の様に、人間の前後左右に歩き回り、紐の長さいっぱいに引き回し、また人間にじゃれついて来たり、手を噛りに来たりする事でしょう。また犬によっては、地面の臭いばかりを嗅いで回ったり、歩くのを嫌がって座り込んだりもするでしょう。こうした違いは、犬の性格や、犬と飼い主のコミュニケーションの度合いによって現れます。 当然の事ながらこうした違いを理解せずに、同じやり方で教えたのではなりません。また、犬を叱る時にも同じ事がいえるのですが、ショックの与え方にしても、日頃室内で放し飼いにされていて初めて首輪を付ける犬と、庭にいつも繋がれていて日頃から鎖をひきちぎらんばかりに跳ね回っている犬とでは、同じ力を加えても犬の受け止め方は全く違うのです。

大きく四つのタイプに分けて考えていきましょう。
飼い主から離れて引っ張ろうとするタイプの犬には、まず行動の主導権を持つのは人間である事を教えます。
紐の末端をしっかり持って、犬が紐一杯に離れる寸前に、号令と共に犬の逆方向に一~二歩走ります。
そしてすぐに歩速を緩めて、犬が追いついたら十分に誉めてやる事を繰り返します。

その逆に飼い主にまとわりついて来るタイプにおいては。犬を無視して歩く事です。
紐は左手に、短めにたるませて持ち、犬がまとわりついて来たら即座に向きを変えて、歩きます。
下手に叱ると、かえって、犬は遊んでもらっていると思い、逆効果です。
上手に歩けた時も撫でないで、落ち着いた口調で誉める程度にします。
飛びついて来る場合は、紐を下方向に強めに引いてショックを与えます。
もしどうしても直らなくて叩く時は、口吻の部分を飛びかかろうとする瞬間に叩きます。

次に、常に飼い主に遅れて、ついて来るタイプの犬に教える時には。とにかく誉めながら歩く事が要点です。
指導者は、号令と共に左手で、軽く紐のショックを伝え、体を大きく屈めて右手で犬を撫でながら努めて楽しそうに歩きます。訓練の時間は短めにして、練習の後には必ず遊んであげてから終わりにします。

また、すぐに座り込んだり、後ずさりする犬もいます。                
基本的には、前のタイプの犬と同じですが、犬が歩かなくなった時に、指導者は犬に合わせて止まらない様に気をつけて下さい。歩かない原因が、何かを怖がっている場合には紐を 短く持って、犬を励ましながら、こまめに紐を引いて歩きますし、反抗して佇立する犬には紐の末端を持って、犬から紐一杯に離れる寸前に、号令と共に紐をひき駆け出します。 とにかく、強引にでも犬を歩かせ、その後十分に誉める様にします。
 



 呼びの教え方
 
 「コイ」(呼ばれて来ること)の教え方 命令用語としては、「コイ」「オイデ」「カム」などです。
呼ばれたら来るという事は、最も基本であり重要な科目でありながら、きちんと、完全に教えられている犬は少ないものです。 どなたもが、愛犬を広々とした広場で、思う存分に駆け回らせてあげたい、遊ばせてあげたいという気持ちをお持ちの事と思います。しかし、公園や広場、海岸には、犬の嫌いな人や好きだけど怖いという人、またお年寄りや、子供づれなど、様々な人がいます。そして、人間嫌いの性格の悪い犬でしたらともかく、人好きの性格の明るい犬でしたら、そうした場は、実に興味を惹く楽しいものだらけなのです。 そうした場所で、呼んでもすぐに来ない犬を放していれば、トラブルが起きる事が当たり前なのです。

本来そうした公共の場所で、犬を放す事は、法令により禁止されています。個々のトラブル自体は、当事者間の話し合いで表面的には解決されますがその後についてくるのは、紐をつけている犬たちをも巻き込んだ、「犬を連れて入らないで下さい」という立て看板です。
とかく、自分の犬をきちんとしつける事もしない飼い主に限ってうちの犬はいい子だから、おとなしいからといって、放したがるのです。
絶対に犬を放してはいけません、とは言いませんが、愛犬が交通事故に遭ったり、また、他の愛犬家に迷惑を及ぼす様な事故を起こしたりさせないためにも、その前に、呼ばれたら即座に来る様にしつけておきましょう。

多くの方は、生後二か月前後の子犬をお飼いになる事でしょう。
この頃は何も教えていなくても、おうちの人がしゃがんだり、手を叩いたりして呼べばヨチヨチながらも、とんで来るのが普通です。それが成長につれて、呼ばれても来ない犬になってしまうのです。
もちろん、最大の原因は、犬が成長につれて、本能として自立心が育って来るからです。
しかし、犬が本能として備えているのは、自立心だけではありません。元来、集団生活をする犬科の動物としての社会性や、遠い昔に、野生を捨て人間との共同生活を選んだ、犬独自の服従性や作業欲。
そういった、犬の持つ素晴らしい能力に目を向けてやる事もせずして、犬にしつけをする過程だけを捉えて、
「叱ることは、かわいそうだ」「犬は自由に育ててあげたい」といった、一見、心の優しい大変に理解のあるかのごとき似非の愛情を注ぐ、自称愛犬家が多くいます。
そうした、犬の本質を知らない飼い主に限って、犬の健康を害する様な食生活を平気でさせていたり、犬をペットと称し、単に、カワイイと、人間の側が一方的に愛情を押しつけたりするだけの存在にしてしまっています。

「何の仕事も与えられずに、何をしても叱られる事もなく別に良い事をした訳でもないのに、尻尾を振って
近寄っただけで誉められる。」バカ殿様ならいざ知らず、まともな神経の人ならば怒りだすような、
そんな扱い方で、犬と付き合っているのです。
そうした不必要に犬の自立心のみを増長し、肝心な素敵な家族の一員となりえる、その犬の持つ優れた能力を、飼い主自ら潰してしまう様な飼い方、育て方に問題があるのです。そして、充分な愛情を持って犬と一緒に遊んであげないから、更に言うならば、犬の興味を飼い主に向けさせる努力をしないから、犬は、よそにばかり行きたがるのです。

一見、招呼の訓練とは、全然関係のない様な話が、大変長くなりましたが、「呼ばれてすぐに来る犬にする」という事は、ある見方をすれば、訓練の一科目とする事自体に問題があるほどに、しつけ・訓練などといった以前の要素が大きいのです。犬種によって、あるいは、その犬の性格によって、これほど教えやすさに差のある科目はないかもしれません。何も苦労して教えなくても、飼い主の傍から離れない犬もいる反面、訓練士ですら、教え切れない犬もいます。それだけに、教えにくい犬種をお飼いの方は、幼犬期からの育て方に充分に気を配って下さい。

常に念頭に置いて頂きたいのは、次の2点です。
 『追えば、逃げる。逃げれば追ってくる。』
 『犬が手元に来た時は、決して叱らない。』

「犬を放すと、呼べば近くまでは来るのだけれど、手元に来ないので、捕まえられない」
これが、一番多い相談の内容です。
本筋から言えば、まず、呼ばれても来ない様な犬を、放す事自体がどうかしています。
「呼ばれても来ない様な犬」と犬を悪く言う表現をしましたが、これは正しくありません。
「呼ばれたら来る事を教えてあげもしない人が」というのが本当です。
平素、家庭で子供にきちんとした箸の持ち方すら教えていない親が、 一流レストランのフルコースの
ディナーに連れていき、マナーがなってないといって、子供を叱る様なものです。

次に、犬の気持ちになってもう一度、相談の文面を読んでみて下さい。質問が如実に語っています。
「犬を放すと、呼んだ時に近くまでは来るのだけれど、手元に来ないので、ほめてあげられない」、
と言っているのではないのです。あなたが犬ならば、せっかく、自由に 遊んでいるのに、どうしますか?
捕まえようと思って呼ぶから来ないのです。
いらいらしながらも何度も呼んで、そのうちやっと捕まえた途端に、「何ですぐに来ないんだ」と言って、
犬をパチンと叩くのです。どう考えても、これでは、犬が来る様になる方が不思議と言うものです。
前述の通り、犬は、毎日の生活の中で自然に学習するのです。飼い主はとかく意識していませんが、
犬にすれば、「呼ばれて行ってみたら嫌な思いをした」という経験は意外に多いものです。
例えば、行ったら、その途端に叱られた。(飼い主は、その以前に犬が行なった、いたずらや、
粗相を叱ったつもりでいるのですが・・・。)行ったら、鎖に繋がれた、犬舎に閉じ込められた。等々。
さらに悪い事に、まだ子犬が呼ばれてすぐに来る頃は飼い主の側は、「呼ばれたら来るという事」など、
「当たり前の事」位にしか思っていませんから、たいして誉めてもあげていないのです。
大切な事は、犬の思考回路の中で、「呼ばれて行った」行動と、「不快なことが起きた」 結果とを結びつけさせない事なのです。そのためには、犬が呼ばれて来た時に傍から見ればバカみたいな程に誉めまくって、
犬の意識を変えさせる事が必要なのです。

犬を捕まえる事を急ぎすぎると、犬は逃げる事を覚えてしまいますから 、誉めまくっている最中に何気なく、身体を撫でてやりながら首輪を掴んで、紐をつけます。またこの時、多くの人が、紐をつけた途端に安心すると共に、急に高飛車になるがために、犬は、紐を見た途端に逃げ出す様になる、という失敗を重ねてしまいます。紐をつけてすぐに誉めるのを止めてしまっては、意味がありません。

科目としての教え方とすれば、通常は、「座れ」や「待て」を教えた後になりますが、それ以前から、
犬が飼い主から離れていこうとした機会を 利用して教える様にしましょう。
時期としては、子犬が、首輪や、引き紐にある程度慣れた頃から、少しずつ始める事が良いでしょう。
くどくなりますが、この段階で大切な事は、手元に来た犬をいかに喜ばせてあげることができるかどうかです。口先で「ヨシ、ヨシ」と言いながら、形式的に撫でている方が多いのですが、犬が喜んでこそ初めて、
ほめたと言えるのです。

そしてこの初歩の練習は、「待て」を命じた状態から犬を呼ぶ科目の訓練に比べて、犬の気持ちがよそに行きたがっている時に行なう分、数段難しいとも言えるのです。
紐の長さと、伸ばした腕の長さの、計2メートル。まずはこの範囲で、確実に教え込みましょう。

犬に引き紐を付けた状態で、犬を自由にさせます。
この時点で犬がすぐにあなたから離れようとするならば即座に、また、犬があなたに纏わり付いて傍についたままならば、何か犬の興味を誘う物がある方に歩きながら、犬があなたから離れる様に仕向けて、 右手で引き紐の輪を掴み、犬の進行方向に、2~3歩ついて歩き、右腕を前方に水平に伸ばす事により引き紐をたるませ
「コイ」の声符と同時に、右手を、瞬間的に振り下ろします。(この時の、右手の動きが、招呼の際の視符の合図です。) 感覚的には右手に握ったボールを後方に投げるつもりで行なって下さい。
そしてすかさず、左手で紐の中央部を持ち、同様に瞬間的に引き込み、 犬を呼び込みます。
初めのうちは、数歩後退りしながら、紐をたぐり 寄せる要領で、もう一度、右手で引き紐のナスカンの近くを持って引き寄せて、犬を完全に手元まで誘い込む様にすると共に大袈裟な位に誉めて、遊んであげます。

段階が進むにつれて、呼んだ後、犬がきちんと座ってから誉める様にしなければいけないのですが、
初めから、幾つも犬に要求する事は、 結果として無理強いすることになりますのでこの段階では、
「呼ばれて行けば、飼い主が喜んで遊んでくれる」と言う印象を犬に与える事だけに専念して下さい。
これを繰り返し教える中で、紐を引かなくても、「コイ」の声符だけで 犬が来る様にしていきます。
そのためには、声符と、腕を振り下ろす事により犬に伝える首へのショックとが、同時でなければ、
犬にはこの二つが結びついて印象付きません。しかし逆にほんの僅か声符の方が早くなければ、
いつまでたっても紐を引かなければ来ない犬になってしまうのです。

声符だけでできる様にするためには段々に、伝えるショックを弱く、また 少なくする事はもちろんですが、
声符を掛けた瞬間の犬の反応に良く注意を払い、もし犬が自主的に来る気配を示した時は、
すかさず鼓舞激励して犬に自信を持たせる事が大切です。
これらの練習も、他の科目同様に、初めは、周りに犬の気が散るものの少ない所を選んで行ない、
徐々に誘惑のある所でもできる様にします。そして、引き紐の距離であれば犬を自由にさせておいても、
呼べば確実に飼い主のもとに戻る様になれば、次の段階として、今度は少し長めの紐を使って練習を重ねます。



 立止の教え方
 
命令用語(号令)としては、「タッテ」「スタンド」などです。
一般に、展覧会向けの訓練をする方にとっては大変重要な科目ですが、
家庭犬のしつけとしては、それほど必要はないかもしれません。
それでも、例えば手入れをする時や、散歩から戻って犬の足を拭いてあげる時、 獣医さんで診察を受ける時、あるいは雨の日の散歩中、ぬかるみのため犬に座って欲しくない時など、この科目も意外と役に立ちます。

今まで教えてきた「アトエ」や「マテ」を、犬が適切に理解している場合は、ほんの少しの練習でできるようになる反面、性格の弱い犬や、これまでの教える過程で、叱りすぎている場合には、教えにくいこともあります。これまでの復習も兼ねて、教えてみましょう。
ちょっと考えればおわかりだと思いますが、三姿勢(停座・伏臥・立止)の内、これが最も不安定な姿勢です。教える際には、犬の不安を取り除く事を最優先し、犬が動いてしまったり、逆に座り込んでしまわないように、常に注意して下さい。
強いショックや、喜ばせすぎる事は、そうした原因になりますので、なるべく淡々と教える様にして下さい。

まず、歩いている時、次第に速度を落としながら、ごく自然に立ち止ります。
約半数の犬は、この時、立ったまま止りますから、ゆったりと誉めてやりながら「タッテ」の号令を
繰り返しかけてあげます。
右手は、犬の顔の前で、待ての合図を行ない、犬が前に動きそうになったら、待ての要領で犬を制し、また、
もしも座りそうになったら左手の甲で、犬の右後跂の膝の部分を軽く叩く様にして支えます。
この時も必ず声符を忘れないで下さい。

また、立ち止ると同時に座った犬については、もう一度「アトエ」の合図で歩きだし、今度は 、自分の左足をそっと犬のお腹の下にあてがって、犬を座らせない様にして下さい。急に足を出すと、犬は逃れようとしたり、かえって急いで座り込んだりもしますので、犬の性格によっては、手で補助をする必要もあります。
これまでも散々述べてきましたが、犬は、抑えれば抑えるほど、反作用で、一層に出ようとします。
抑える際は、緩急をつけて制する事が大切です。そして、犬が立った姿勢でいる時には、主にお腹を軽く撫でながら、穏やかな口調で誉めてあげるようにして下さい。

立った姿勢で居られるようになったら、次は、別の姿勢から立つことを教えます。
「タッテ」の号令で、右手で、紐を軽く前に引いてやると同時に、左足を、犬のお腹の所に差し込んで、犬の後跂の腿から膝にかけての部位を後方やや上に押し上げる様にして犬を立たせます。
「アトエ」で飼い主に併せて歩く事ができている犬でしたら、飼い主が左足を半歩踏み出して、
歩き始めるふりをすれば、いとも容易なはずです。
 




 ポイントを絞って
 
  訓練を始めたばかりの見習訓練士に「今、何を教えているの?」と質問すると
決まって「呼びを教えています」「脚側行進を教えています」といった返事が返ってきます。
訓練を傍で見ているのですから、そんなことは尋ねなくてもわかります。

例えば、持来と言って、投げたダンベルを犬に持って来させる訓練科目があります。
・ダンベルを咥えること
・犬が自分から口を開くこと
・自らダンベルに向けて口を近づけること
・中央部分を咥えること
・咥えなおしをさせない
・指示があるまで待つこと
・物品に向かうこと
・途中で落とさないこと
・寄り道せずに戻ること
・戻って正面に座ること
・指示で口から放して受け渡すこと

教える過程においては、簡単に挙げてもこれらいくつもの教える階梯があります。
教える人が、今、犬に何を教えたいのかを明確にしていないようでは、犬に理解させることは難しいのです。






  
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